第10話 皆と一緒に。 PS.ねぎらいの言葉って、本当、救われるよね。
「結愛から手を離せこるぁああア!!」
その声――!!
「な! 誰だ貴様は!!」
カーソは頭上を見上げたために私から完全に気がそれている。
「成――――!!」
って、んお!?
何だか成にしては格好が、その、女性らしくないというか!?
お、男の格好!?
「ヒロ、大変だ! やったな、必殺技を会得している!」
「ジャス、なんだって……ほんとだ!! よし、一か八か!! ――
ヒロの剣が大きく振られたと思うと、氷でできた霧がカーソを囲い、そこから鋭い氷の柱がいくつも突き上げられていた。
「ぐ、あ……!!! アタシの身体が……!!」
カーソは完全に不意を突かれ、徐々に凍りついていく。
「よし!」
カーソの腕がついに力尽き、自由になった私はすぐさま飛び退こうとする。
「ユア! 危ないです!」
ドンッ――!
衝撃が来たかと思えば、私はヒロに抱えられて氷の柱の外へと飛び出していた。
「っすみません!! 僕の技でユアを危険な目に合わせるとこでした……!」
ヒロが今にも泣き出しそうな顔で私を見ている。
「いいよ、大丈夫」
「本当に、すみません……!!」
私がヒロから降りて、少し微笑みを見せた時。それだけでヒロの瞳から涙がほろり、ほろりと溢れていた。
何だかさ。こういう優しさ、博之がもしそうだったらって思ってしまいそうなんだけど。
「ほら、いつ反撃くるか分からないよ」
「っ、はいっ! それにしても、彼は一体――」
私達は剣を構えつつも、上空からカーソへ勢い良く向かう成へと視線が集中していた。
身動きできなくなったカーソ。もう間もなく、全身が凍りつきそう。
「この、アタシが――!? ぐぅッッ――!!!」
「これで終わりだァ!!
成の拳が、凍りついたカーソを一気に貫く。
グァシャァァァン――――!!!
砕け散る音を背に、振動が、大地を揺るがした気がした。
粉々となったカーソの身体が薔薇の花びらに変化し、地に落ちていく。
「あ……」
私の手元に、一輪の薔薇が現れ、光を増したかと思うと、ビー玉の様なガラス玉に変化していた。
「ユア!! やったな!」
「ジャス……あ、ね、これって何?」
「おお……! オレも初めて見るな。これは、“記憶が浄化された世界”の一粒だ」
「え!? こんな小さいのが!?」
私はビー玉としか思えないガラス玉をまじまじと見つめる。中身は、七色に光っていて、暖かな気持ちになれる気がした。
「それを、集めて歪みまくった世界を救う。それがユアの勇者としての役割なんだ」
「ほえー……そう、なんだ」
「やりましたね、ユア」
ヒロもガッツポーズで喜んでいる。
「僕はユアのお陰で強くなれました。これからも力になれるよう、精進します!」
「精進だなんて、そんな」
博之との思い出を見て気持ちを思い出したからか、少し気恥ずかしい。
「おーい結愛、俺を忘れちゃ困るんだけど?」
低く響き渡る声に驚いた私はやっと我に返った。
そう。まさかの成を、こちらの世界に呼び出せていたなんて。
「まったく、勝手にいろいろ始めたかと思えば無茶するんだからな」
「……な、成、成なんだよね?」
「ああ。俺以外、居ねえよ。結愛が強く、俺を思い出してくれたんだろ?」
「うん、うん……!」
「こっちに来た瞬間、この姿になってんだもんな。話し方もこれから変えられないってあり得ねぇ」
嘘でしょ、本当、ゲームのせいで美形さも増して恥ずかしすぎる。
しかもこれが本来の成――!?
「ご主人!」
ジャスが嬉しそうに成へと飛びつく。
「お?」
「え?」
私と成があっけにとられていると、
「勇者であるユアの一番の道標となる重要な仲間であり、オレのご主人様だ!」
「な、何かカッコイイ事言ってるけど、そうなのか?」
「分からない……けど、たしかに成がこのゲームを当てたんだし……とりあえず、このゲームのダブル主演的な、そんな感じじゃない?」
「そうなのか、そりゃオイシイな」
成が嬉しそうに頷く。本来の姿でそんなに嬉しそうにする成、久しぶりに見たかも。
「ま! どうにか魔女も倒せたんだし一件落着だな」
ジャスが腕を組んで、うんうんと頷いていた。
「ああ……。そうだね。本当、よかった……」
成が来てくれて。
そして、いろんな気持ち、思い出せて――。
温かい気持ちがこみ上げ、安心しきると力が抜けてしまい、地面にへたり込んだ。
「おい、結愛!?」
「ユア!? 大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫……。ちょっと力が抜けちゃっただけ」
「まったく……。ココだけだからな。こういうことするの」
「え?」
何のことかと思ったその時、私の身体がひょいと浮いたかと思うと、成になんと横抱きにされていた。
「なななっ成ぅ!?」
「疲れて歩けないんだろ。甘えろ、たまには」
「ひ、ひえー……!」
恥ずかしすぎます、成。
「ここでは正真正銘、文字通り守ってやるからさ」
成はニッといたずらっぽく笑っていた。
現実に戻った時、私どういう顔すればいいか……!!
ああもう! ジャスとヒロ、なんか固まってるし!?
私が照れに照れていると、世界が揺らぎだした。
ああこれは。現実に帰るんだね。
一件、落着か。
・・・
“ピピピピピ――”
「う……」
「ぁ……。結愛? 起きた?」
「うん……おはよ」
目を覚ました時は、美女の姿となっている現実の成が目の前に。
あぁー。本当、勿体無いな、どっちの性別でも。
「……何よ、結愛」
「んー……ねぇっ。いつか私の前だけでも、そのままの成でいてね?」
「何言ってんの。ま……考えてもいいけどな」
最後の言葉に、美女である見た目とはギャップがありすぎて、私は吹いてしまった。
「あ、仕事行かなきゃ」
時計を見た私は急いで支度して、出勤する。
・・・
「結愛、おはよう」
「岡本さん。おはようございます」
「おっ? 何かいいことでもあったのか?」
「んー? オムライスが美味しかった、から?」
「そうか。その……また、一緒に御飯できたら……嬉しい」
何だろう、博之が前より気持ちを素直に伝えてくれるというか、本当に爽やかになってる気がする。
こんな関係、もっと早く築けばよかった……かな?
そうそう。職場で変わったのは博之だけじゃなかったりも。
「ねぇ、今日の賀川さん様子おかしくない?」
そんな噂が社内で分かりやすいぐらい広まっていた。それは賀川さんの雰囲気が、いつもよりとても穏やかだったから。カーソの件があり、偶然にも程がある気がして、私は賀川さんの姿をつい目で追いまくってしまう。
「またミス、か。ま、いつも頑張ってるものね」
「え……!? そ、そんなっ、ありがたいお言葉です! ううぅっ……!」
おお……! なんと部下へのねぎらいの言葉!
しかも、わ、あの人泣きそうになってない!?
「ねぇ、賀川さんって新しい彼が出来たって本当!?」
「ぇええ!? まじ!? 一体いつ出来たのさっ!」
「うへー……その男、勇気あるよなー……!」
以前とは違って、楽しそうな噂が続くばかり。
賀川さんの注意の罵声が今日はまったく聴こえない……。
なんか、凄いな、いろいろと。影響あるんじゃないかってしか思えない。
いろんな噂を耳にする中、私は温かい気持ちで仕事をこなしていく。
私達が倒したカーソってやっぱり……?
どうか、温かい家庭が築けますように。
そう思っていると、ポケットに入れていたスマホが震え出す。
「あれ? 誰だろう……」
”一つの世界が救われれば、それは浄化と同じ。いろんなところに影響があって面白いだろ? 元々世界は一つだからな。ま、これからもよろしくな! from:ジャスティス”
「何、この文章……ってどうして!?」
デジタルの世界とこちらの世界を行ったり来たり。もう何だかすごく
ドタバタした日々だったけど。って、まだ現役中か。
勇者やって、こっちの世界にも影響があるって悪くない、かな。
そうだよね、成。皆。
私は、
間違った未来から、皆を救うために。
メモリーズ ~記憶の道標~ (全10話) ❁完結❁ 満月 愛ミ @nico700
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