第7話
百妃は、剣のかまえ方を変えた。
骨喰藤四郎を、地面と水平な状態でかまえる。
ニコライは、少し訝しげにその様子をみていた。
骨喰藤四郎は、一瞬だけ刃を下に向け鮮烈な光を放つ。
その光を見たニコライは、頭に鉛玉を撃ち込まれたような衝撃をおぼえる。
セーラー服を着た少女が、とても遠くにいるように感じた。
ちょうど望遠鏡を逆さに見たように、世界が小さく見える。
ニコライは、身体を動かそうとして失敗した。
動けない。
絶叫をあげようとしたが、呻き声が喉の奥から上がってきただけである。
ニコライは、ようやく自分が既に斬られていることを、理解した。
「二階堂流、心の一方だよ。マキーナ・トロープ」
どこか優しく、少女は囁きかける。
四肢の自由を奪われたニコライは、棒立ちのまま百妃を見ていた。
骨喰藤四郎を持つ左手が、金色の光に包まれる。
左手は、黄金色の獣毛に覆われていた。
沈みゆく太陽が放つ最後の輝きを、少女は左手に宿している。
「マキーナ・トロープ、お前のために古式ゆかしい蠱毒で練り上げた呪をくれてやろう」
それは、とても自然な動作であった。
街で久しぶりに出会った友の元へ歩み寄る歩調で、百妃はニコライの側に立つ。
息がかかるほど側に少女がきたと思った瞬間、骨喰藤四郎はニコライの心臓を貫いていた。
衝撃が雷撃のようにニコライの全身を襲い、同時にニコライは身体の自由を取り戻す。
血を吐き、地面を赤く染める。
マキーナ・トロープはたとえ心臓を貫かれても、体内に埋め込まれた億を越えるナノマシンが傷ついた箇所を修復するので死ぬことはできないはずであった。
けれど、ニコライは自分の修復機能がほとんど動いていないことに気がつく。
「パウリ・エフェクトか」
ニコライは、血とともにその言葉を吐き出す。
術者は、全ての電子機器を停止させてしまうパウリ・エフェクトを起こすことができる。
しかし、マキーナ・トロープの体内に取り込まれているナノマシンは、影響を受けない。
にも関わらず、百妃の使った蠱毒はニコライのナノマシンから力を奪っていた。
「ティーガー、アハト・アハトだ」
少女は冷酷に、言葉を放つ。
革のコートを纏った、金髪碧眼のおとこが鋼鉄の戦車砲となった左手をニコライのほうへ向ける。
死よりも昏い砲口が自分のほうに向けられるのを見て、ニコライは笑った。
(やっぱり、鋼鉄がおれの運命だろうが)
ニコライが最後に聞いたのは、世界を終わらせる轟音であった。
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