第3話

少女は、手に剣を提げている。

少し反りがある片刃の剣らしいそれは、まだ鞘におさめられたままだ。

おとこは、薄く笑う。

「マキーナ・トロープとはいえ、おれにも名はある。ニコライという」

少女は、整った顔立ちではあるがどこか印象の薄いその顔に、そっと笑みを浮かべる。

「ニコライね」

部屋に、突然ドローンが出現する。

4機のドローンには、それぞれスタンガンが装備されていた。

舞うように部屋を移動したドローンたちは、少女たちを囲むと一斉にスタンガンを発射する。

少女は、すばやくティーガーと名乗ったおとこの後ろへと隠れた。

ティーガーの黒い革コートは電撃カプセルを受けて、青白い火花に包まれる。

ティーガーは、常人であれば数回気絶させられるだけの電撃を受けながら、平然と立っていた。

少し瞬きを、しただけである。

少女は、一瞬だけ剣を抜きまた鞘に収めた。

闇の中を三日月のような光が、すばやく疾り抜ける。

少女の振るった剣は、何にも触れていない。

しかし、ドローンたちは制御を失い床へと落ちていく。

ニコライは、楽しげに笑った。

「おまえは、術者ということだな。パウリ・エフェクトの使い手というわけだ」

少女は、そっと頷く。

「おれは名乗ったぞ、術者。マキーナ・トロープに名乗る名はないということか?」

少女は、少し驚いた顔になる。

「そうね。まあ、わたしのことは百妃とよべばいいよ」

ニコライは、頷いた。

次の瞬間、ニコライの全身が金色の光に包まれた。

その身体は、変形しつつある。

「マキーナ・フェノメノンね」

百妃と名乗った少女は、そっと呟く。

ニコライの身体は、急激に膨張していった。

その瞳は、鬼火を宿したように赤く輝いている。

剣のように鋭い爪が、両手から伸びていく。

天井近くまで膨れ上がった背中から、大きな金色の翼を開いていった。

百妃は、ティーガーに声をかける。

「アハト・アハトだ、ティーガー」

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