虎よ、世界の終わりをみよ

憑木影

第1話 

おとこは、ひどく不機嫌な顔をしている。

おとこの目の前には、豪華な料理が並べられていた。

焼きたてのティーボーンステーキに、ハーブバターソースのたっぷりかかったクラブやシュリンプが大皿に盛り付けられている。

また、南国の鮮やかな色彩にいろどられた果物が、別の鉢に盛られていた。

おとこの前には、血のような真紅に輝くワインのそそがれたグラスがあり、芳醇な香りを漂わせている。

豪華なのはテーブルの上だけではなく、その部屋もまたとても豪華な部屋であった。

天井には硝子の城塞かと思うような巨大なシャンデリアが吊るされ、壁には優美な花々を幾何学的文様で描いたタペストリが掛けられている。

おとこが腰かけているのは、中世の欧州で使われていたのかと思わせるほど凝った装飾で被われている椅子であった。

おとこは、漆黒のテーラードスーツを身につけ飢えた野獣の瞳で空を見つめている。

フォーマルな装いに似合わない、殺気と死の匂いが自然と身体から立ち昇っているのが、見えるようだ。

おとこの放つ死の気配に呼応するように、窓の外から銃声や悲鳴が聞こえてくる。

時折爆発音も聞こえるが、外で行われているのは戦闘というよりも、一方的な殺戮のようだ。

苦痛に満ちた叫びが、おとこが持つ獣の瞳を時折輝かすように見えるが、曇天のような不機嫌さに切れ目をいれることは叶わない。

そのおとこの眼差しの先に、コンバットスーツのおとこが姿を現す。

コンバットスーツの若いおとこは、おとことは対照的に上機嫌である。

「お頭、おんなを連れてきましたぜ」

言葉どおりに、若い男の後ろに夜空を縫い上げたようなドレスを纏ったおんなたちが姿を現す。

おんなたちは、皆美しく艶やかな香りとドレスを身につけているが、微笑に潜む怯えを隠すことができない。

不機嫌なおとこは、ゆらりと立ち上がる。

長身で、逞しい身体が、豪華な部屋に聳え立った。

黒いスーツに白いシャツというモノトーンで構成された姿は、どこか死の司祭を思わせたが野獣の瞳は荘厳さを打ち消して、野蛮さを主張している。

おとこは、並んだ美女たちを眺めほんの少し唇を歪めた。

次の瞬間、おとこが腰から抜いた大口径リボルバーが火を吹いた。

おとこの抜いたレッドホークが放つ、454カスール弾はおんなたちの身体を破壊する。

六つの豪華な大輪の薔薇が咲くように、おんなたちの背後で血が繁吹いた。

若いおとこは、何か楽しい冗談を聞いたかのようにけたたましく笑いはじめる。

エジェクティング・ロッドで空薬莢を捨てたおとこは、スピードロッダーで454カスールを再び弾倉へ装填しもう一度撃った。

若いおとこは眉間を撃ち抜かれ、床に転がる。

少しだけ、おとこの口に笑みのような形が浮かんだ。

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