第4話

ティーガーの左腕が、黒い光に包まれる。

突然、ティーガーの左腕が小さな宇宙空間にのみこまれたようにも見えた。

そして、その漆黒に輝く光の中から、巨大な鋼鉄の砲身が出現する。

一方ニコライは、既に全長10メートル近くはある黄金の龍へと変化を終えつつあった。

無数のダガーが並ぶかのような牙を剥き出しにして、金色に輝く龍は笑う。

「56口径8.8 cm Kwk 36戦車砲か」

ニコライは、牙のはえ並んだ口から言葉をこぼす。

冷徹に輝く4メートルはあろうかという鋼鉄の砲身が、ニコライのほうへ向けられる。

ニコライは、咆哮をあげると短刀のような爪を備えた前足で、ティーガーへ襲いかかった。

その月影が持つ金色を纏った爪がティーガーの身体に触れる直前に、世界が破滅させるかのごとき轟音を響かせ砲口から徹甲榴弾が放たれる。

爆炎と闇を駆逐する火炎が砲身から放出され、至近距離から初速810m/sに達する徹甲榴弾が金色の龍に命中した。

流体金属から形成された金色の龍を被った装甲は、その徹甲榴弾の飲み込もうと液状化して渦を巻く。

しかし、徹甲榴弾は龍の腹に食い込むと破砕された太陽の輝きを放ち、炸裂した。

黄金の龍は、巨人の手で薙ぎ払われたように、スウィートルームからはじきとばされる。

壁をぶち破ると、爆炎につつまれて十階の部屋から地上へ向かって墜ちてゆく。

それは炎に包まれた明けの明星がごとき、姿であった。

巨人が鉄槌を地面に叩きつける轟音が、聞こえてくる。

百妃は、破壊された壁際にかけより、片手に剣を提げたまま地上を見下ろす。

闇に包まれた地上で、鬼火に包まれたような金色の龍が地面へめり込んでいる。

死んではいない証拠に、真紅の薔薇に犯されているように炎につつまれた龍は、身体を蠢かせていた。

「ティーガー、地面へ降りるぞ」

片手を長大な戦車砲に変形させたままの状態でティーガーは頷くと、黒革のロングコートを漆黒の翼のようにはためかせ地面へと身をなげる。

剣を手にした百妃も、後を追って宙に身を投げティーガーの背に足を乗せた。

ティーガーは、地面にいる龍に向かって再び徹甲榴弾を放つ。

強力な8.8 cm Kwk 36戦車砲の反動が、ティーガーと百妃の落下速度を抑える。

首をもたげつつあった金色の龍は、その頭を徹甲榴弾で破砕され再び爆炎に包まれた。

ティーガーは巧みに地上に放置された車両をクッションがわりにして、落下の衝撃を殺す。

乗用車を破壊して地面にめりこむティーガーの背から百妃は跳躍し、一回転して受身をとると金色の龍の前に立った。

剣を腰に、構えている。

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