血の味に紛れた(不)純愛物語

血の味は好きですか?

私はあまり好きではありません。つまりは口内を切って血液を味わっている状態ですから。愉快な状況ではないでしょう。

この作品からは血の味がします。
なのに、ちっとも嫌じゃない。それこそが魅力を引き立てているから。

物語の冒頭から活躍する実直なケイイチとその彼女が、この物語の主軸にいます。彼らは運命の波に飲み込まれながらも、出会うべくして出会い、惹かれ合い、そして最後の天の川を渡るときに再会を誓います。

そして彼らが再会するように、すべての物語の歯車とキャラクターたちの行動原理が組み立てられていきます。

ハードなアクション、エロス(ここ重要!!)、そして女が女であることの存在証明――まさに血の味が展開され、息を呑んでいるとあっという間に世界に取り込まれてしまいました。

けれど読み進めていくと、その再会のためのロジックが不思議な「ずれ」を見せていきます。

彼と彼女以外のキャラクターたちがまぶしい光を発してきます。
お読みでないかたは、ぜひ、そのまばゆさを感じていただきたい。
既読のかたには、ソウマと&キッカの存在感のことだと、お伝えしたい。

この血の物語は、実は、ソウマとキッカの不純愛物語なのですから。

ソウマとキッカは、日々に迷い、人生を煩悶し、運命から逃げ出そうと、それに流されて生きようと、苦しみ続けます。その姿は、まるで現実の私たちそのものです。純愛ゆえに再会を求めるケイイチとは全然違う。

物語の後半は、ソウマとキッカが、人間の弱みを抱えながら、それでも気持ちに気づき、腫物に触るようにやんわりと距離を縮めていく。
「お前ら中学生かよ! 美味しい! 正義! ソウマのツンデレ! はよデレろ!」と叫ばずにはおれません。
ちなみに私は叫びました。はよ! デレよはよ!

ケイイチとヒロインが純愛だとすれば、ソウマとキッカは不純愛。

この素晴らしい対比が、物語の隠れたアピールポイントになっています。そして現実の私たちは、この対比を目前にしながら、両カップルの行く末を祈ってしまうのです。はよ幸せになれ! と。

血の味は好きですか?

その独特のアクは、美味しいものを引き立てます。

チョコレートにはカカオという苦味があるように。
抹茶パフェには抹茶というエグ味があるように。
バニラアイスにはバニラという強烈な苦味が備わっているように。

この物語の2つの恋愛物語は、血の味でデコレートされるからこそ、きわめて甘美な味わいを提供してくれているのです。

イチオシです。
みなさまもぜひ、その味わいを堪能してはいかがでしょうか。
丁寧で簡素な描写も、その魅力を際立たせています。

じんたね拝

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