やっぱりホモ
喧嘩騒ぎが大げさに伝わったわりに、軽い処分ですんだ二人は一週間の停学を経て、登校してきた。
史郎、無視してるが、良太の喧嘩は珍しいので気になった。
噂話が聴こえてくる――
――リョータ君て、ああ見えて意外と暴力主義。ひそひそ……。
我慢ならずに史郎は机をたたいた。
「んなことねーよ!」
「あ、庇うんだー」
「やっぱりホモ」
「ちっげー!」
(なにか理由があったんだ。八雲に聴く――)
しかしなかなかチャンスが来ない。悶々と過ごす史郎。学食でカレーうどんをかっこんでるところをやっとつかまえた。
八雲、ずぞぞっと麺をすすり、
「あいつはおまえが漢だって、証明したかった」
陶然として丼を置いた。
「ああいうやつがいるなら、日本は大丈夫だ」
「なんだそりゃ」
「わかんねーけど、親父が言ってた」
呆れ傷付く史郎。
「そんなことしてほしくなかった。ばか良太」
八雲は腹をさすりながら、
「それでいいのか」
「?」
「あいつが守りたかったもんは、そんなもんなのか。あいつを見損なうなよ」
史郎はつくづくと相手を見た。アオタンだらけの顔の中で、瞳だけがまっすぐだった。
「あいつが何を守りたかったって?」
「親友、だとよ」
史郎は思わず音を立てて立ち上がった。
「……」
良太。おまえ……。
*
昼過ぎの購買部。良太は小銭入れから十円玉をとり出している。
「ノートサンクス。いつもわりーな」
「いいって」
正直良太にはまだわだかまりはある。あるけど筋は通さねーと。
「……どうしてあんなことした」
「なにがー?」
良太はコピー機をガタガタ鳴らす。
「すぐ返すから」
ノートをひっくり返している。
史郎、黙って良太の鼻をねじる。
「ひでで……」
「八雲から聞いた。おまえ、オレの舎弟のつもりか」
「それでもいいよ」
史郎愕然。周囲を見回す。だれもいない。よかった。
「なに言っちゃってんのおまえ」
良太、歯をむいて笑った。
「おまえが戦うなら邪魔はしない。だけど一方的な暴力は犯罪と同じ。オレなら喧嘩ですむからオッケー」
かすかにうなる史郎。
『オレも良太のために戦おう』
そう決心して――かたく、拳を握りしめた。
*
(かわいくてなんだ! オレは正義だ)
妹のカチューシャは返した。これで史郎を守るものはない。
良太登校。
「史郎、相変わらずかわいいな!」
「やっぱホモなんじゃないの、おまえ」
良太と史郎、お互いに心は一つ。
((ここにいるのはおまえの親友だよ))
声に出さない信頼。
萩原ちとせが史郎に声をかけてくる。応じる史郎。二人の親し気な様子に良太、愕然として「つまり二人は現在つ、つきあっている?」
史郎、笑って、
「あほかおまえ! 幼少時だからって、オレがなんの下心もなしに女のために体はるわけないだろ」
「そんなー! 史郎のスケベー!!」
良太、駆け去る。史郎、笑って。
「少しは効いたかな」
「でもいいの? リョータは史郎のこと、嫌いになれないよ。苦しむよ」
「いつか話します。ま、これくらいのウソ笑って許してくれるよ。あいつなら」
二人、軽く見かわす。
「史郎、ちーちゃんを賭けて勝負だ!」
「おう!」
百メートル走は良太の勝ち。
「勝負だ! 良太」
「おっ、おお!」
水泳の百メートル平泳ぎは史郎の勝ち。
「負けるかー」
「うおおー」
まるで二人は青春の一番大事な友との時間を取り戻すかのように勝負に明け暮れて。ホモの噂もひとりでに消えて、二人はお互いに居心地のいい場所を手に入れたのだった。
END
オレらゲイじゃありません! れなれな(水木レナ) @rena-rena
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます