視線の先に指先(中林先輩)

 中林さんはバスケ部の先輩だ。

 特別私と親しいわけじゃないが、久々の兄との夕食で兄が「ウチに来る」と言ったその女性を、私は部活の時間中自然と注視するようになっていた。

 流石に先輩も視線に気付いたようで、休憩の時間に珍しく先輩は私の隣に腰かけた。やましい気持ちはないはずなのに、さっきから心臓が痛いほど脈打つ。

「綾。さっきから私のこと見てるけど、なんか付いてる?」

 中林先輩は一旦ポニテを解いて汗を拭き、手寂しそうに手首に通したヘアゴムを弾きながら聞いた。

「あ、いえ、別に。何にもないですよー?」

 動揺を隠すために、私は咄嗟におどけてみるが、却って不自然度が増した。先輩は眉をひそめるも、深くは追求せず、

「ふうん。ならいいけどね。」

 とつやつやした髪をかきあげて、ゴムでくくる。

 なんてことのない所作のはずなのに、柔らかく動く白い指先に、その指と指の間を流れる深紫に、どうしてだろう、脳裏に兄の姿がちらついて、胸がざわつく。

 中林先輩は先に練習に戻った。レイアップシュートを決める先輩の指先は滑らかで、またなんとなく落ち着かない気分になった。

 結局、収穫はなかった。先輩が今度家に来ることについて尋ねられないほどに、今日の私は冷静さを欠いていたのだ。

(515字)

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家族プロムナード 馬田ふらい @marghery

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