嵐の前だったりする(兄)

 パートに出ている母から「帰りが遅くなる」と連絡を受けた。私も部活が休みなので、今日は兄と二人で夕食だ。

 食卓で兄と対するのはかなり久々な気がする。

 会話の切り口を見つけるのは私の仕事で、兄はそれに反応を返す。改めて志望校を聞いたときは黙り込まれてしまったけれど、部活の話は意外にウケがよかった。


 脈絡のない、たわいない話を続けていると、唐突に兄が「なあ」と言った。


「バスケ部に中林っているだろ?」


 あまりに唐突だったので、私は一瞬焦った。でもよく考えれば、二人は学年も同じだし、クラスで一緒になったとかならいくら人脈がない兄でも知っていても不思議ではない。


「中林先輩ならわかるけど、なんで?」


「今度ウチ来るから。」


 兄は顔色変えずに衝撃的なことを言い放った。

 え、ちょっと。初耳なんだけど!?なんで?いつ?どのタイミングで?

 私の動揺をよそに、兄は皿を流しに持って行くので、「ちょっと待って」と引き止めようとするけど、時すでに遅し、いつものようにヘッドホンを被り家族空間からログアウトしてしまった。


 食卓にぽつんと取り残された私は、頭の中は千々に乱れて、無意識にまだ食べかけのカレーライスをぐるぐるぐちゃぐちゃにかき混ぜているのだった。


(510字)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る