エピローグ「私とこいつの距離」
チャイムが鳴り響く頃にはシトシトと降り続いていた雨も止み、私は、
「んぅー」
背筋を伸ばして机の上を片付ける。
目の下がちょっと腫れぼったいけど、涙はもう止まってる。これ以上流れてくることもなさそうだ。
「ありがと」
「ん」
何事もなかったかのように机を元に戻す亮太とそんな様子をなんか懐かしいなーって眺める私。
今でも手を伸ばせばちゃんと届くし、きっと15センチも離れてない。
や、机戻したからもうちっとあるかな。
けど、多分そんなには離れてない。
そのことが分かっただけでもなんかスッキリした。
ずっとひっかかってた。
なんか変だなって。なんでこうなったのかなって。
けどそれって些細なことだった。
「ありがとね」
「ん……、おう……?」
多分亮太は良く分かってないし、私もまだ良く分かってない。
なんで祥子が亮太に告白すると嫌なのかとか、なんで亮太が私と距離を置いてたのかとか、ぜんぜん。
けど、亮太は亮太で多分変わってなくて。私も私で、変わってない。
多分私たちの間に少しだけ距離ができたぶん色んなものが入ってきて、けどまぁ、離れたぶん見えなかったものも見えたりして。
「……そーいうの悪くない」
と思う。
良くわかんないけど、今は。
「……やっぱなんか変だぞお前」
「んー? そうかもねぇ?」
「ああん……?」
今はまだ、わかんなくてもいい。
私だって良くわかんないんだから、あんたが私以上に私のこと分かってもらっちゃ困る。
だから今はただ、今はこうして、昔みたいに話せるだけでなんか嬉しい。それだけで十分だ。十二分だ。それ以上を私は求めようとは思わない。求めていない。
「これからもよろしくね、りょーたっ?」
らしくないとは思うけど、そんなことを言ってしまって。
けどなんか小学校の頃みたいだなって嬉しくなって、あと思った以上に照れ臭くて。まぁ、色々あって。
「いやいや……自分の教科書持ってこいよ。めんどくせーよ」
そんな亮太に笑ってしまった。
多分まだ、私に恋は分からない。
だからまだ、友達がいい。
不貞腐れた顔の幼馴染を見て、そう思った。
いまの私たちにはこの距離がちょうど良い。
おしまい。
15センチ隣の幼なじみ 葵依幸 @aoi_kou
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