7.見つかったもの、守りたいもの




 翌朝。荷物もまとめ終わり、部屋の鍵もルキッラのもとへ。悠と詩織の二人とは、これでお別れだ。


「マサキ、ヴィットーリオもありがとね」

 詩織はそう言いながら二人と握手した。そしてルキッラの手を取って、二人の時より強く握りしめた。


「ルキッラも。本当に楽しかったよ。あのさ、私、あなたに伝え忘れてたことがあってさ」


「え、なあに?」


「楽団員に日本語話せる人がいて、通訳してもらったんだけどさ、楽団長のアスカニオが言ってたんだよ。ここはルキッラがいる限り、間違いなくいい宿だって。すごくいい思い出の香りがするって! あの人達、体が不自由な子供たちがいる施設で演奏することもよくあるらしいんだけどさ、これからは必ずこの宿の事、ルキッラの事話すって言ってた。ルキッラのこと絶対忘れないってさ。ついでにレモンパスタも」


『ルキッラがいる限り、間違いなく』この言葉がルキッラの胸に沁みた。


「ルキッラ、私もそう思うよ」

 悠が詩織の手の上から手を重ねた。詩織が手を引き、今度は悠が握る。


「私、一番見つけないといけない物、ルキッラのおかげで見つけられた。日本に帰ったら、お店継ぐ。遠くから来た人が忘れられない思い出作れるような、その思い出をずっと守っていけるようなお店に。うちは定食屋だし、どうやったらいいかはまだ分からないけど、でも必ず。ありがとう。本当にルキッラのおかげだよ」


「ううん……私の方こそ色々ありがとう」





 スーツケースをゴロゴロ引きながら、宿の玄関から表の道へ出る。マサキが「悠ちゃん」と呼ぶと、悠も振り返った。


「ゴメン、昨日おとといは、適当なこと言ったけど、俺、日本に修行には……」


 すぐに「分かってる」とうなずく悠。

「ここでもう最高の料理作ってるからね。別にわざわざ日本に来なくたって。だけど、もし旅行とかで日本に来たら、絶対連絡してね」


「あ、ああ。それと俺、他にも聞きたいことがあって」

「なに?」


「結局、もう一つの悠ちゃんが見つけたいものって、何だったの?」


 詩織の方が「あはっ」と笑い、悠もそれに続いて「ふふっ」と軽く笑った。


「聞くだけ野暮だよ。どうでもいいちっぽけなことだから、もう忘れな」


 そう言うと悠は両手で、マサキとルキッラの片手をそれぞれ取った。


「二人とも、末永くこの宿を守ってね。私も詩織も日本で応援してるから」


「ありがとう。私たちも悠ちゃんのこと、ここから応援してるよ。絶対忘れないから」

 そう言ってルキッラ、それとマサキも、悠の手を強く握った。



 ルキッラとマサキは、階段を登って去っていく悠と詩織が見えなくなるまで、その場で見送っていた。


 海と階段の街にあるルキッラの宿。ここにはまた一つ、守っていく思い出が増えたのだ。






―終わり―

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海と階段の街、ルキッラの宿 ロドリーゴ @MARIE_KIDS_WORKS

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