#13 そりゃみんな若いからね

「素晴らしいですわ、マオ!」

「壁が崩壊したわ! みなさん、突撃の用意を」

「行きますわよ!」


 壁を破壊したマオへの称賛と次の行動について、素早く語るお嬢様たち。

 そんな彼女たちを、俺は校長に連れて行かれた切り株に座りながら見ていた。


「体育祭だからなんですかね。みんなテンションが高いというか、めっちゃ嬉しそうですよね」

「そりゃみんな若いからね……あっ私も十分に若いと思うけど、あの子たちみたいに、もう……」

「いやまぁ、それにしても趣味悪くないです? 近くの男子校襲撃するなんて……みんなもみんなですよ。体育祭の一言で、それも全力で楽しめちゃうんだから……」


 俺はシーガデル女学園に一方的に襲撃――それも毎年の恒例行事として攻撃されるブルンブルン学園のことがかわいそうに思えてきた。

 何となく俺はあまり愉快な気持ちになれなかったので、校長に嫌味を飛ばしたのだ。

 しかし、校長は、


「いやいや、みんな男子校に攻めに行けるから楽しんでいるんだよー」

「はっ? 何いってんだ」

「あれあれー、権力者相手にその態度はないじゃーん?」

「イテテッ、暴力反対っ……」


 俺のこめかみを拳でグリグリと痛めつけながら、校長はどこか遠い目をして、


「みんな男子を触れ合えるってことで、興奮気味なのよ」

「あー……えっいや、男子ってユウはずっと前から用務員として学校にいたんだろ。その流れだと、ユウはお嬢様高校に一人だけの男でハーレム状態やんけ! 許せん……けしからんぞぉ」


 俺がユウと出会う前。つまり、ユウが勇者を辞めた時。

 紆余曲折あって、家をなくしていたユウとマオに旧校舎の一室を提供したのがこの校長本人である。

 女子校でいい思いでもしたんだろうってユウに対して、うらやま許せんしていると、校長は目を細めあきれたように……


「それ、本気で言っている訳なの?」

「んっ、そうに決まっているんじゃ。女子校に入れるだけでウハウハなんじゃ……」

「ユウはマオに夢中過ぎて、みんなユウのことは男としては見てないのよ」

「あー」


――あれ? そういえば俺も女子校入ったことある気が……まぁ、気のせいだな。ウハウハできなかったし、そもそも。ありゃノーカンで。


 俺はこの前、ユウたちに緑の女学園に女装……もとい、女体化させられてぶち込まれたことを思い出す。

 そういえばあの時、ユウに助けてもらえたと感謝していたけど、よくよく考えればあいつらのせいだから一発取っちめなくてはいけない。


「変なこと考えている顔してるねぇ……コータローは考えていることが顔に出やすいから本当にいいわ。顔に出てこない人は本当に面倒くさくて」

「経験談みたいですね」

「その通りの、校長先生の経験談でしたー。詳細聞きたい?」

「…………うーむ」

「迷ったらとりあえず聞いとくのが、お互いに幸せになれるものよ」

「へぇ、じゃぁ」


 校長はユウの過去について話し始めた。


 ユウは勇者時代、人との交流を避けてきたので、人の気持ちが全く分からない存在となった。

 幼い頃から勇者という使命を背負い、周囲の期待と羨望と嫉妬の眼差しを一身に浴びていたユウは騎士学校を飛び出し、たった一人戦い続けた。

 宿屋も利用せず、寝ることもなく。

 疲れ、痛み、苦しみ。ユウは、その全てを放棄したのだ。


「……勇者現役時代のユウは色々ぶっ壊れていたわね」

「ん? ユウは人と接していなかったのに何で分かるんだ。遠隔から魔法で監視していたのか」

「そんなんじゃないんだね。ユウは一人で騎士学校を飛び出したって言ったでしょう。だから、しばらく行方不明状態だったの。そこで私がユウの面倒を見ることになって……その流れで『潰す』ことになったのよね」

「えっ、何を」

「そりゃもちろん……」

「もちろん何!?」


 その時、ブルンブルン学園の副生徒会長が声高らかに宣言したことが聞こえてきた。


「貴校の学生諸君、一つ聞きたいことがある! そちらに『ジンマコータロー』という男は居らぬか!」


――あれ、何で俺?


 急に自分の名前を呼ばれ俺が困惑していると、校長が、


「あっ言うの忘れてた……」

「おい、何か知ってたのかよ」

「…………えっと、そういえば、ブルンブルン側の学生も女子と普段交流する機会ないからテンション高いわね」


 汗をかきながら弁解する校長をじっと見つめると、


「今思い出したんだけど、あなたを呼び出したのって質問があったからなのよね」

「その質問ってのは?」


 校長が一息置くのを見て、俺はなんだか嫌な予感が……


「『シグモナルミ』って女の子知ってる? その子が今、うちの学校の学生と勘違いされて……ほら、うちの学校って『ニホン』から持ってきた『女子校生服』を最近導入していたじゃない。たぶん、その子『ニホン人』なのかな。うちの制服に似た服、着てたから捕まったのかな」

「あの、状況を端的に教えてください」

「一言でいうと、『シグモナルミ』って子をブルンブルン学園は拉致しているみたいなの。うちの体育祭をやめさせようとして」


――えっ……どうして、JKがこんなとこに。


 異世界に行くには俺のおじいちゃんの転移門を使わないとまず無理だ。

 それなのに、どうしてJKが……ストーカー怖すぎなんだけど。


――てか、まず!


「今すぐやめちまえ! こんな体育祭!」

「そんなこと言わないでよぉぉ。学校の収入源の一つがぁぁ」

「お前今なんつったんだよっ!! もしかして、体育祭の混乱に乗じてブルンブルンの物品盗んで売ってるとかじゃねぇよな!」

「もちろん違うわよ! 向こうの校長とっ捕まえて、『今年の体育祭をこれで終了してほしかったらちょっと資金援助をしてね』って言いに行っているだけよ!」

「脅しじゃねぇか、もっとタチわりぃよ」


 そんなこんなで、俺はシーガデル女学園のみんなとJKを救いに行くことになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

#同居中の『勇者』達に勝手に出会い系に登録された俺の気持ち たまかけ @simejiEgg

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ