#12 走る系の競技しかないんっすね
体育祭。普通はリレーとか、借り物競争とか、障害物走とか、玉転がしに決まってると、俺は思う。
「走る系の競技しかないんっすね。それはそれで、ツマラナそうっすけど」
「…………」
「なんすか、その不服そうな顔は。ちょっと引くっすよ」
「うぅぅぅ……」
体育祭の競技中。競技に参加した俺は目の前の惨状から目を背けたくなったが、同じく競技中のチャーに、目の前で巻き起こっている……『破壊行動』について聞くことにした。
「なぁ、これって……競技なんだよな」
「そっすよ。正真正銘、我がシーガデル学園の伝統行事っす」
俺は一旦冷静になって考えた。あたりに響く轟音とお嬢様たちの楽しそうな笑い声。
明らかにミスマッチな組み合わせの音に、俺は我慢ならず、
「おい!……男子高の塀に魔法とか石投げつけて、破壊することのどこが競技なんだよ!」
お嬢様たちが競技としてやっていること。
それは、シーガデル女学園の近くにある男子高、ブルンブル学園の敷地に踏み入り、外周にある塀をぶっ壊すことであった。
俺は意味がわからなかった。何でそんなことするんだよって。それのどこが体育祭なんだよって。
だが、チャーは俺の言葉に、
「うん? 塀だけじゃないっすよ」
「まだあんのか?」
「この塀終わったら、校舎の破壊にうつるんっす、みんなで。コータローはそんなことも知らないんっすね。バカチンじゃないっすか、バカチンノスケ侍っすよ」
「お前ら……ケフィーもだが、最近『チン』って言いてぇだけだろ……てか、塀だけじゃあきたらず、校舎まで墓石に行くのかよ。どうかしてるだろ、考えたやつとっちめろって」
「この競技考えたのは、校長っすねぇぇ、あっ……」
「あんのクソアマ校長め。今度問い詰めて」
その時、背中に物凄い視線を感じたので、振り向くと……
「ニマー……」
「なっ、なぁぁぁっ」
……校長のニマニマした顔が超至近距離にあった。てか、ニマーとか自分で言っちゃっているよ、この人。
「あっ、その……」
「その校長って私のことで合っているわよね?」
「えっ、あの……言葉のアヤというか、なんというかですね」
「ちょっと、こっち来てね!」
「やめてくれぇ! 年増に暗がりに連れていかれるぅぅぅぅ」
俺はチャーに助けを求めたが、「っす!」と語尾だけ言われ放置されたので、無事校長に連れていかれたのだった。
* * * *
「コータロ選手! 校長に連れていかれちゃいましたね。これはどうでしょう」
「………………うわぁぁぁぁっ」
「ユウ?」
ノリノリのケフィーが、よく実況が解説に状況説明を求めるように、ユウに問いかけたけど、ユウは両手で体を抑え、震えていた。
「どうしたのよ」
「……校長と二人きりは怖いんだよ」
「あー……そういえば、あんたそうだったわね……」
ケフィーはユウの『下』を見ながら、色々察した。
幸太郎はまだ知らないが、ユウの玉を潰したのは校長なのだ……経緯はどうあれ、真実はそれなのだ。
――コータロー大丈夫かなぁ……
ケフィーはそう思いながらも、自分にできることは特にないので。
プルプル震えるユウが新鮮で、ケフィーは少しの間眺めていたが、別にそれを見てもそれほど楽しくなかったので、ユウを励ますことにした。
ケフィーは人の不幸を喜んだり、笑ったりするような女子じゃないのだ。
「ほら、ユウ。今、マオが壁にトドメ刺すところよ」
「おぉぉぉぉ! マオぉぉ頑張れぇぇ」
そうしてマオが拳でひびが入った男子校の壁にトドメを刺すと同時、お嬢様たちの黄色い歓声と、ユウの叫び声と、壁の崩壊音に混ざって……
「またお前たちかよ!!! いい加減、うちの学校を毎年恒例行事のように壊しにくるんじゃねぇ!!!」
被害者側の、ブルンブルン学園の生徒会長が顔を真っ赤にして、不満を爆発させていた。
――毎年の恒例行事のように……じゃなく、本当に恒例行事なんだよなぁ。
ユウは、思ったことを口に出すとドチャクソ怒られそうだなって思ったので、
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