燻し銀のような掌編集

同著者の『ガレオン船と茶色い奴隷』のスピンオフとでもいうべき作品。とはいえ、本編を読んでいないとわからないような作品ではなく、むしろ、短く親しみ易い形で長編『ガレオン船』へと読者を誘う入門編のような趣もある。
一話完結の短編集となってはいるものの、この作品の魅力はすべての短編を読み終えた時に発揮される。人種や差別、暴力といった『ガレオン船』でのテーマがくっきりと浮かび上がってくるからだ。

ちなみに、扱うテーマは重いが、全編を通じて清冽なリリシズムが漂っていることは指摘しておきたい。その一端を感じてもらうには下に引用する少女の言葉だけで十分だろう。

「お父さんと同じ匂いの人はみなおじさんよ。おかあさんはお粥のにおいがするの。お隣の犬はひなたぼっこのにおいがするのよ。しってた?」


決して派手な作品ではない。むしろ地味だ。淡々と日常が描かれていく。しかし、テーマと合わせて考える時、おそらくこれが正解なのだろうと思わせる。しっかりした歴史小説を短編で読みたい方に。