キャッチandキャッチ
美少女と会えなくなってもう1年くらいが経過して、俺と友人は、一緒の大学へと進学した。
「おっ、それうまそうだな。なんてメニューだ」
「ペッパービーフ丼よ。……あげないからね」
「あぁ分かってるって」
当時――美少女に会えなくなってから、しばらく俺は学校を休んだ。
心配して家まで来てくれた友人にそのことを伝えると、友人は嬉しいような悲しいような変な顔をした。
その数日後、友人に告白された。突然だった。
俺は断った。どうしてか分からない。友人のことは憎からず思っているのに。
――美少女にまた会える、そう思い続けたかったからかもしれない。
友人は泣いた。突っ込んだ俺のポケットには何もなく、駅前のポケットティッシュ貰っとけば……そう思ったけど、状況は変わらない。
呆然と立っているのも申し訳なく、俺は機転を効かせ自分の着ているT-シャツを脱いで渡した。これで拭け、と。
友人はシャツを掴むと投げ捨てた。そのまま、俺の胸板に泣き顔をこすりつけた。
俺は、おい、と制止した。友人は、少しだけ、そう言った。
俺の胸板に散々涙と鼻水と唾液を染み込ませて友人は顔をあげた。
どこかスッキリした顔だった。でも、俺の胸はグショグショだった。
――そんなことがあったけど、友人とは友人らしい関係のままである。
いや、同じ大学にまで行くくらいだし、親友と言ってもいいかもしれない。
親友って言っても前みたいに肉はくれなくなったんだけど。
「引っ越しってもうすぐだっけ」
「あぁ、そん時は車出してくれるんだよな」
「うん。せっかくとった免許だしね。あんたもいい加減免許とったら」
そうだな、と答えようとして、食堂に響いた大声に思わずそっちを見てしまった。男2人が立ち上がって、熱意の篭った握手をしていた。
「大学って色んな人いるよね」
「そうだな」
それからしばらくして、俺は都内のワンルームアパートへの引っ越しを始めた。
別に一人なので、業者を雇うのは勿体無くて友人に頼むことにしたのだ。
これから引っ越しの作業に入るから、と挨拶をしにいく。横の部屋と、一応真下の部屋にも。
同じ大学生も何人か住んでいると聞いていた通り、下の部屋には同学年の男がいた。
「これから引っ越しでうるさくするかもですが」
「いいって。それより、俺の部屋の方が今後騒がしくするかもしれんから、よろしくな」
「……靴めっちゃありますね」
「まぁワンルームだけど何人かと同居してんだ。変わった連中ばっかだが、面白い奴らだから」
その言葉を聞いて顔を見たら、あることを思い出した。
「あ、この前、食堂で騒いでた」
「その事は忘れろ」
「……はい」
彼にも思うところがあったのだろう。この話はやめておく。
「手伝ってやりたいんだが、これから少し用事があってだな。下のことは気にしないで頑張ってくれ」
「おう」
そう言って、友人が乗る車に戻ろうとした時、電柱に人影を見つけた。
気になって近づくと、人影は消えていた。女の子のような気がしたんだけど。
「おっそーい。時間かかるなら言ってよ。エンジン切っちゃって暑い」
「すまんすまん、少し話し込んじゃってな。てか、運ぶのは俺だけでいいから、エンジンつけっぱでいいって言ったろ」
「それじゃ悪いってのも言ったでしょ。いいから手っ取り早く終わらせちゃお」
そう言って小さいダンボールを取った友人に、それは重い教科書だ、と奪って別の箱を促す。
一人暮らしなので、荷物の運び入れはすぐに終わった。
家の色々な機能を確かめるために、蛇口を捻って水をだしたり、電球やコンロをつけたりしてみた。
友人が車を出すそうなので、自販機まで走ってジュースを買って渡す。
「ありがと。ねぇ、ここって学校に近いんでしょ。たまに来てもいいかな」
「遊びにくるなら別に構わないぞ。でも学校に近いとか関係なくないか」
「泊ってもいいかって言わないと分かんないかなー、あんたは」
「分かんねぇよ――てか、泊まるのか。無理無理無理、こんなワンルームに2人でとか無理っしょ。ありえねぇって、正気じゃねぇよ」
友人は、冗談だって、といって車を走らせた。
俺は、アパートの階段を上る。何故か水が流れているなーって思いながら、歩いていると……
「えっ、これ俺ん家じゃね……」
自分の部屋の階に辿り着いた時、気づいてしまった。急いで、部屋のドアノブを引っ張る。
「おっ重い、何なんだよっ」
水圧とか何か良く分からんけど。水出しっぱのせいだけじゃなくて、絶対水道管破裂してる。
「めっちゃクチャ重いって、こんちくしょー」
全身の体重をかけてドアを引っ張り、尻もちをつく形でドアが開いた。
目を開くとそこには――
「だから、重くないって言ってるでしょ」
「なっ何で美少女が……」
目の前には、金色の髪をした美少女。1年前よりも大人びていて、きりりとした目をしていたけど、その可愛さは増していて。
「久しぶりね。……ちょっと聞いているの」
金魚鉢に頭を突っ込んで彼女の全身を見たことはあったけど、こうして現実で彼女の姿を見るのは初めてだった。
「なっ何で、1年も会えなかったんだよ。何で、何で今、金魚鉢ないのに、どうして……」
また会えた、そのことを素直に喜びたいのに、出てきた言葉は自分でも驚くものだった。
「何でって、弟君から聞いてないの」
「ふぇっ」
「聞いてないみたいね……あなたの父上の仕事のことは」
「どっかで
美少女は、はぁ、とため息を吐いた。幸運が空気中に飛んだので、俺は急いで吸い込んだ。とてもいい空気だ。
「いい、あなたの父上は"こっちの世界"で、"空間"について研究しているの。それで、"世界"っていうのはいくつか存在していることに気づいたあなたの父上は、世界間を繋ぐ紙を作ったの。あなたに送った手紙がそれよ。水に溶かして使うから、この水浸しの感じだと、偶然その紙が溶けたみたいね」
唐突すぎる言葉に唖然とする。この前、金魚鉢ごしに掴んだ、見たことありそうなブラは
――ってか、弟よ、何で教えてくれなかったんだよ。
ちょうど父は今家に帰っている。スマホを取り出して、すぐさま電話をかける。
『あぁ、そのことか。んでも、いい女だろ、そいつ。俺がいい感じのこと言って、お前の部屋の金魚鉢とそいつの部屋を繋いどいたんだぜ。感謝しろよ、そして、結婚して、俺に孫を見せろー。男でも女でもいいぞ、うんと元気な子を頼むぞ』
電話を切った。ついでに言うと、電源ごと落とした。
「何かあったの」
「何かも何もなっ、って言うか戦争、戦争はどうしたんだ。今ここにいるってことは、無事だったんだよな」
「ちょっと近いって。――戦争は無事に惨敗したわ」
「無事に惨敗って何だよ」
美少女は、目尻を丸めながら、
「そりゃもう、ボロボロに負けたんだけどね。私が頑張って交渉したのよ。我が国の技術や特産品だけじゃなくて、国のシステムも使ってね。色々苦労したわ。でも、最終的に国民のみんなを守ることができたし、私は王になったし」
「今さらっとすごいこと言ったよな。てことは、お前の母さんの汚名も」
「綺麗にできたわよ」
「やったな。マジで頑張ったんだな」
俺は美少女を抱きしめていた。彼女の顔を確かめることなんて、できない。
けど彼女も腕を俺の背中に回してくれた。互いにつかみ合った。
「なぁ、美少女、俺は……」
「ねぇ、いい加減その"美少女"って言うの止めない。恥ずかしいんだけど」
「あっあぁ、じゃぁ俺から」
俺と美少女は互いに名前を教えあった。
「"ノスフィア"……」
「……はい、"カジ"」
俺は自分の気持ちを伝えた。
――もう、この手を離さないでいたい。
弟は美少女を釣り上げて、リリースしました たまかけ @simejiEgg
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