気になる人が気になっているか気になって気が気でない
「兄さん、その花どうしたの」
「まぁ、何となくな」
「…………」
「んっ、何かあるのか」
家に帰るとちょうど弟が玄関にいた。
ちょうど出かけようとしたところに、ちょうど鉢合わせした俺は、ちょうど手に持った花束を、ちょうど後ろに隠して、ちょうど部屋に戻る。
弟は何か言いたげな顔をしていたが、行ってきます、と家を出て行った。ふぅ、危ない危ない。ってか、ちょうど部屋に戻るって何だよ。
「おう、行ってこい。てな」
何となくいつもより挙動が不自然だったとは思った。
そして、その理由は自分の部屋に入ったらすぐに分かった。
「あっ、えっ何で、きれいに」
金魚鉢が新しいものに変わっていた。水は透明になっており、中の金魚は見えるようになっていた。
床が汚れているから、もう前の金魚鉢を割ったってことは明白。手に持ったカバンとバラの花束をベットに放り投げ、制服を着替えるのももどかしく顔を金魚鉢に突っ込む。
いつものように目を開けると歪んだ世界が広がる。起こった出来事が信じられず、息が苦しくなるまでそのままでいた。
「
足で床を鳴らす。落ち着かない。次になりをすればいいのかさっぱりだ。
無意味だと考えることもなく、金魚鉢に頭を入れたり出したりを繰り返す。
鼻に水が入り、息を絶え絶えになったとき中の金魚が外に出てしまったところで冷静になった。
「っ……すまん、金魚よ」
申し訳ない気持ちになって金魚を戻す。タオルをとってくる気も起きず、上着を脱いでタオル代わりに使う。多少引き締まった身体にうっとりする暇もない。水を弾く筋肉を触ったりする余裕もないっ。
床に倒れるようにして座り、首を回すとあるものに目が留まる。
「便箋か? これ、父さんが作っているオリジナルの……」
四角い便箋。何処から見ても必ず正方形になるように、目の錯覚を考慮された無駄にこだわった便箋。ほんとに無駄なデザインで全く売れず、在庫を大量に買わされたと父から聞いている。
丁寧に折られた飾りっけのない便箋を開く。
そこには、文字が書かれていた。読めるが拙い
悠長な日本語とは想像のつかない文字。
だからだろう、どうしてこんなにも読みにくいのはっ……くっ
文字は更にかすみ、歪み、読み終わる頃には完全に前が見えなくなった。
「くっそ、そういうことだったのかよ……」
美少女が弟に頼んだんだ。金魚鉢が新しくなっているのが、証拠。
便箋にかかれている言葉の意味。
――彼女は、美少女は、自ら交流を絶った。
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