番外編 きらきらをあげる

 お勤めを終えて泉を後にすると、ベルクートが待っていた。これ、と差し出されたものを受け取った手のひらがきらりと光る。


「珍しかったから、チサトから買ったんだ」


 あげるよ、と言う。


「でも」


 それは、蝶の飾りの髪留めだった。翅がやわらかな七色の光をまとっている。


「貝殻細工なんだ。……本は高くて手が出なかったから」


 遠く、東にあるという海。イルーシュカの知らぬ海を語るベルクートの眼は、貝殻に負けぬほどの輝きを宿していた。

 本は好きだ、知識の宝庫だから。けれど。

 イルーシュカは前髪を払って髪留めをつける。唇をかたく結んだまま、頬をかすかに赤らめるベルクートに微笑んだ。


「嬉しい。有難う、ベルクート」



(委託頒布の際に封入した300字SS)

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ふたり、神鳴りの 凪野基 @bgkaisei

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