第33話 EP 新たな門出


 青空の下、セシルとロナウドは港湾都市に来ていた。

 奇しくも5年前に追放されたあの港である。


「ふんふん」と上機嫌に鼻歌をうたうセシルが、目的の船を見つけた。

 クリス商会の船だ。


 あの時と同じ船長が、

「お嬢さま。お待ちしておりましたよ」

とにこやかに言い、2人は握手をする。


「ところで、お父さまとお母さまは?」

 こっそりと船長にたずねると、船長は片目をつぶってウインクした。

「大丈夫です。まだバレてはいませんよ」


 とたんにホッとするセシルとロナウド。

「……もうあきらめわるくって、神殿の人も聖女さま聖女さまって。私はならないって言ってるのに」

「ははは。まあ、仕方ありませんな。あれだけのことがあっては……」

「私は、ただロナウドと冒険したいだけなんだから」


 ぶつくさといいながら、船内に入る。船長が、船員に指示を出し、船はけいりゅうしていたロープを解いていかりを上げた。

 船はゆっくりと動き出していく。


 ――また来るわ。だから、またね。私の故郷。


 セシルはロナウドと甲板に並んで離れていく街を眺めていた。


 その時、一台の馬車が猛スピードで港に入り込んできた。スタンフォード家の紋章がついている。


 セシルが、

「やばいっ! 見つかった!」

と言い、船長に「急いで!」と叫んだ。

 船長はニコリと笑って、「ヤー! ものども、オール準備! 急いで港を出るぞ!」と言うと、船員たちが「ヤー!」と返事をする。


 馬車から、父と母が走り出してきて、船を追いかけるように走りよってきた。


「セシル! 戻って――」「来なくていいから! たまには帰ってきなさいよ! あなたの家はちゃんとこっちにもあるんだから!」


 父の言葉を母がさえぎった。立ち止まって、なさけない顔をする父の背中を母がバシンと叩く。


「もう会えないわけじゃないんだから、しっかりしなさい! 嫁に行った娘が家を出て行くのは当たり前でしょ!」

「う、うおお――! ロナウドめ! ゆるさんぞ!」


 とうとうもうげんを叫び出した父の背中を、今度はり飛ばして海にたたき落とす母メアリー。

 扇子を広げて口元を隠しながら、こっちを向いてにこやかに手を振っている。見ると、海から顔を出した父がしょんぼりとこっちを見ていた。


 まったくしょうがないなぁ。


「お父さま! お母さま! 今度は遊びに来るからね!」


 セシルの声に、ようやく父も笑顔になって手を振った。


 ……ふふふ。ちゃんとまた来るから。心配しないでね。


 セシルは腕をロナウドの腕にからめ、さわやかな海風を浴びながら、

「行ってきます!」

と大きな声をあげた。



◇◇◇◇

 2人の出港の様子を、港の片隅でオルドレイクとベアトリクスもながめていた。


 オルドレイクが船を見ながら、

「初代剣聖の名は、ロックハートと言う。……お主の先祖じゃ。しかし、お主は剣聖にはなれぬな。勇者として聖女とともに歩むがいい」

と微笑みながらつぶやいた。



 2人が見ている先で、船は外洋に出ていく。


 どこまでも広がる晴れた空にこんぺきの海が広がっている。

 光り輝く太陽に見守られながら、2人を乗せた船がゆっくりと遠ざかっていく。


 その光景は、まるで天地が、海が、世界が、セシルとロナウドの行く先を祝福しているように見えた。



    ――fin.




◇◇◇◇◇◇

これで聖女セシルの恋愛冒険譚は完結となります。


拙作に、最後までお時間をとっていただいて、お読みくださった皆さんに心から御礼申し上げます。

本当にありがとうございました。


また励ましのお言葉などをお寄せくださいまして、まことにありがとうございました。


本作はタグこそ「悪役令嬢」等のテンプレを付けていますが、実は悪役令嬢ものじゃなくて、王道の恋愛まっすぐストーリーなんですよね。

ロナウドを取り合う恋のライバルもないけれど、困難を乗り越えて結ばれるまでの軌跡ですから。そういう意味では少し変わった作品になったのではないかと思います。


本作は一旦、完結となりますが、いつかハイファンタジーで、スピンオフ、続編を書くかもしれません。その時は、またお読みいただければ幸いです。


すべての作者さん、読者さんに感謝を込めて。また次の作品でお会いしましょう。


 平成29年6月  夜野うさぎ


――――――

さあ、これからいただいたご意見の再検討をするぞ。皆さん、本当にどうもありがとう!

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追放されたのに、今さら聖女なんてお断りです! 夜野うさぎ @usagi-yoruno

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