第2話 生後一時間、女神なら俺の隣で寝てるよ?
目を開くと見慣れぬ天井が見えた。背中にフカフカな感触がある。どこかに寝かされているようだ。起き上がろうかとしたが上手く体が動かない。手を見てみる。赤ん坊の手だ。そして俺の寝ている所のには落下防止用の柵で囲まれていた。そっか、俺は女神様の依頼で異世界に転生したんだったな。今は生まれて間もない赤ん坊って事か。
ふと気づくと柵の向こう側から三、四歳くらいの男の子がこちらをのぞき込んでいた。少年の
「???」
少年が何かを言っている。だがその意味は分からない。異世界の言葉だから仕方ないか。
少年がそのまま走り去る。その先には少年の父親らしい男が立っている。男の頭にも二本の角が生えていた。そしてもう一人、
「???」
三人がこちらを視つつ楽しそうに話している。もしかしてあの人達はこの世界での俺の兄と両親なのかな?
『そう、あれが兄様の家族ですわ』
頭の中に声が響く。しかもこれは日本語だ!! もしかしてヘメラさんかな?
『半分正解ですわ。わたくしはヘメラから分かれた魂。現世では兄様の双子の妹ですの』
そっかギフトカタログから初回得点でもらった能力か。まさか双子として生まれるとはな。そんな事を思いながら横を見る。赤ん坊がこちらを見ていた。この子がヘメラさんの分身か。
『能力が発動したタイミングが母様の中にいる時でしたのでこうした結果になりました』
母親ってあれは兎だよな……。オーガ族の男性には他の種族をオーガ族に変えてしまえる能力があるって言ってたけどそれなのか?
『はい、母様は元兎の獣人ですね。愛し合う二人なら男性オーガの血を飲む事でオーガに変わる事が出来るのです。その時眉間に一本の角が生えるのですわ』
なるほどな。それにしても二人とも赤ん坊じゃしばらく何も出来ないな。魔王が出てくるまでに強くならないとな……。
『安心してください兄様。見た目は赤子でも能力はこの世界で最高のものになってますわ。具体的な数値で見せますね』
突然ヘメラ(分身)の能力がわかった。脳内に情報が流れ込んでくる。目をつむり集中しないと頭がどうにかなりそうだ。細かい数値まで見る気にならなかったが、攻撃も防御も魔力も十万を越えている。この数値が強いのか弱いのかわからん。
『この世界で過去に最も高かった攻撃力の数値や魔力の数値を適用した結果ですわ。ちなみにこれが父様と母様、そして兄様のです』
父さんは攻撃力、母さんは素早さが百ちょっとだが後は六十から八十ってところだ。これに比べたら十万はとんでもねえな。そして俺の数値は攻撃と素早さが二であとはゼロだ。赤ん坊の能力はこんなものなのだろう。俺の使える魔法は補助系魔法か。せっかく魔法の使える異世界に来たのに攻撃魔法じゃないのか、残念。
『補助魔法は肉体強化や状態異常を治したり、怪我を治す系の魔法ですわ。つまり兄様は超癒し系キャラなのですわ』
なんだか嬉しそうに話すヘメラ(分身) 何が彼女を上機嫌にさせたんだろうか?
ギフトカタログで攻撃魔法が覚えられるか確認してみる。○○系魔法と系統別に分かれていて初級は五ポイントで手に入るようだ。中級は五十、上級は二百五十、最上級が五百で極みが千とポイントが高くなっている。将来的には何かの攻撃魔法を覚えるのもいいな。
他にも自分の能力を確認してみる。エクストラスキルと書かれた項目に目が行った。そこには二つのスキルが書かれていた。『双子の
『エクストラスキルは生まれ持つ特殊な能力ですわ。数億人に一人という割合で生まれる強力な力ですわ。集中すれはその詳細がわかるはずですわ』
双子の共感に意識を集中させる。能力がわかってきた。これは双子である俺と彼女がどんなに離れていても相手の状況がなんとなくわかるという能力だ。近ければ近いほど共感は強まり、隣に寝ている今の状態では相手の考えさえ何も言わずに伝わるらしい。今やっている会話もこの能力のおかげで出来ているようだ。
もう一つの能力である天使は女神ヘメラによってこの世界に送られた事を示すものだ。善行を積むことで能力を手に入れられる。つまりギフトカタログの能力ってわけだ。
『使命を与えられ神によって送られた。まさにお兄様マジ天使ですわ。癒し系天使…… グヘヘェ』
なんだか背筋が寒くなるような思念が伝わってきた。そういえば彼女にもエクストラスキルがあるんだろうか?
気になって確認してみた。『双子の共感』これは俺と同じだ。もう一つあるな、それは『女神の魂』
これは彼女の魂が女神のモノであることを示している。すべての能力にブーストがかかり、どんな武器や魔法も使えるというものだ。なんと万能な能力だろうか。これなら今すぐにでも一人で魔王も倒せそうだな。
『兄様が望まれるのでしたら今すぐやりますわ。と言いたいところなのですが、残念ながら今回の魔王はまだ生まれてないのですわ。前回の封印された方なら人の来ない山奥で復活してますけど、どういたしますか?』
それじゃ復活しそうなのだけ何とかしてもらおうか。ヘメラ(本体)さんの話だと魔王はこの世界の人達を鍛えるためのシステムらしいから一体は暴れてもらわないと困るからな。でも二体はいらない。話がややこしくなるだけだからな。
『わかりました。兄様がそう望まれるのでしたらすぐに片付けてきますわ』
え、この子どうしてこんなに俺に従順なの?
『わたくしは兄様が望まれたからヘメラより分れ生まれた存在。兄様のために生き、兄様だけを愛し、兄様に尽くすのに喜びを感じるのは当り前ですわ』
いや、俺達兄妹だから愛とかおかしくないか? 前世では一人っ子だったが、これが普通の兄弟と違うのは理解できる。
『普通の兄妹と違うのは当り前ですわ。わたくし達は魂で結ばれた存在、綱引きの縄ほど太い運命の赤い糸で結ばれたパートナーなのですわ』
ああそうか。と納得しそうな勢いで語っている。うん分かったから魔王を倒しに行っておいで。親や兄さんにバレない様にな。
『はい、行ってきますわ』
ヘメラ(分身)が自分の姿を幻覚で作り出し、瞬間移動で復活しそうな魔王の元に向かった。離れたことにより彼女との繋がりが薄くなっていくのを感じる。今は『健康そうだなー』ぐらいしかわからない。これが双子の共感の効果なんだな。
その後カップ麺が出来るくらいの時間で戻ってきた。全くの無傷、余裕の圧勝だった。
生後一時間、魔王一人目撃破っと。こうして俺の楽しい異世界生活が始まるのだった。
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