来世は異世界で無双する

戸下ks/トゲカッス

1章 学園入学

第1話 転生前、交通事故からの異世界

 上を見ればどこまでも広がる星空。右を見ても左を見ても壁のようなものは無い。下を見るとタイルのような真っ白い床が広がっている。床には交通事故の現場が映し出されている。タイヤのブレーキ痕が残った道路、壁に突っ込んでいる軽自動車、そして壁と車に挟まれているのは……。


「あれは俺か?」


 そもそもどうして俺はこんな何もない空間に居るのだろうか?


 そしてこの床の映像は何なのだろうか?


「今日あった事でも思い出してみるか……」


 たしか一週間ぶりに立ち読みをするために部屋を出たんだったよな。それからコンビニ行って、その帰りに足にボールが当たったんだよな。それから四歳ぐらいの子供が道路の向こう側からこっちに走ってきて、自動車が子供に気付いていない様子でそれから……。


「そっか俺は死んだのか」


 床の映像を見ながらようやく理解した。子供を庇って車の前に飛び出したんだった。映像の中で子供は母親らしき女性に抱かれて泣いている。どこにも怪我をした様子もなさそうだし安心した。

 自分の体がそこにあって、それを見ている自分がいる。ここはつまり死後の世界って訳か。川とか石を積むとか花畑とか無いんだな。


「その通りです。七志野ななしの 権兵衛ごんべいさん」


 目の前にいつの間にか女性が立っていた。誰だろう?


「私はヘメラ。貴方に分かりやすいように言うと神といった所でしょうか」


 自称神のヘメラさん。突拍子もない話だがこんな不思議空間にいるんだ信じられなくもない話だ。


「それで神様が俺にどんな用事なんですか?」


「そうですね、立ち話も何ですから座ってください」


 突然丸いテーブルと二脚の椅子が現れた。


「紅茶とクッキーも用意しますね」


 ヘメラさんが微笑むとテーブルの上にはクッキーの入った皿とカップ、彼女の手にはティーポットが握られていた。


「どうぞお掛け下さい」


「あ、はい」


 椅子に座る。ヘメラさんが紅茶を入れてくれた。


「それで俺は死んだんですよね。ここは死後の世界って事ですか?」


「いいえ、ここは私が貴方とお話しするためだけに作り出した世界です。急ごしらえなので何もなくてすみません」


 俺と話すだけのために世界一つを作るとかさすが神。しかしなんで俺? 別にイケメンじゃないし、不細工でデブな引き籠りだぞ。彼女いない歴イコール年齢の十七歳そんな俺をわざわざ呼び出す意味は何だ?


「それでお話しなのですが、貴方にとある世界を救っていただきたいのです」


「世界を?」


「はい。貴方が元居た世界とは異なる世界です。前にネットに書き込んでましたよね『エルフとかいる異世界に生きて~』とか『今世は捨てた、来世で頑張るわ』と」


 たしかにそんなことをネットの某呟きサイトに書き込んだ事はある。まさかそんな事を女神様に見られていたとは……。


「そして貴方には我が身を顧みず子どもを助ける勇敢さがあります。ですから私は貴方を選んだのです」


「分かりました。そこまで言ってくれるのなら引き受けましょう」


 どうせ死んでしまった以上元の世界に戻るわけにも行かない。それならまだ次の世界を選べれるだけお得と考えよう。


「それにしても世界を救うって具体的に何をすればいいんですか?」


 戦争している国同士を和解させろなんて事だったらかなり厳しいぞ。


「それを話すにはまず私達について説明しましょう。私達は普段世界を作り出し観察をし、必要なら干渉しています。なぜそんな事が出来るのか、いつから私達が存在しているのかは分かりません。気が付いたらそこに存在していてそういう力を持っていたのです。そしてこれから救っていただく世界には人を成長させるためにある神が『魔王システム』というものを設定しました」


「魔王システム?」


 なんだか名前から大体の事が予想できそうなシステムだな。


「五千年に一度、強力な存在を出現させて人々の結束や成長を促そうってシステムなんです。いつもは魔王と一緒にそれを倒せる勇者も生まれるんですがそれが誕生せず、しかも五千年前の魔王は討伐できずに封印されていてそれも復活しそうなのです」


「ならそのシステムをなくして、復活しそうな魔王を倒せばいいんじゃないの?」


 自分達が作ったシステムなのだから自分で外せないのだろうか。


「無理です。私達神には力の優劣がありません。同じ力なので先に世界に付けられた設定を変えたり消す事は出来ないのです。それに私自身が一つの世界に降り立ったらそれだけで世界は壊れてしまいます」


「なるほど、それで俺に勇者の代わりをして魔王を倒せって訳なんですね。ところで貴女が世界に降りると壊れるなら、この空間はどうして存在してるんですか?」


「それはこの世界を極限まで小さくて頑丈にしたからです。それでも一時間しか持ちません。すでに端のほうは崩壊を始めています」


「じゃああまりゆっくりはしていられませんね。早いとこその世界に俺を送ってください」


 せっかくの異世界生活なのに始まる前に世界崩壊に巻き込まれて死ぬわけにはいかない。やることもわかったし行動したい。


「待ってください、その前に私からささやかなプレゼントがあります。これをどうぞ」


 ヘメラさんの手に百科事典のような厚さの本がある。それを俺のほうに手渡してきた。


「これはギフトカタログです。イメージをしやすいように本の形にしましたが触るだけで頭の中に直接情報がいきます」


 たしかにヘメラさんの言う通り手にしただけで本の中身が理解できた。この本は俺が善行を積むたびにポイントがたまり、そのポイント数に応じた能力を手に入れられるというものらしい。

 受けた依頼に最後まで参加した 一点

 困っている人を助ける発言や行動をした 0/20 一点

 のように一回でポイントが貯まるものや何回もこなさないとポイントにならないものもあるようだが、具体的に何がポイントになって現在どれだけ貯まっているのかも確認できるらしい。さらに欲しい能力をキーワードで絞り込むことも可能なようだ。


「魔王を倒すためには強力な力が必要です。この本はその助けになるために用意しました。それと異世界に行く前にこの本の中にある能力を一つだけ貴方に差し上げます。どの能力でも選んでください」


 初回特典の無料で一つプレゼントか、せっかくならポイントが高くて有効な能力がいいかな。例えば相手の能力を無効化する能力や相手の能力を奪う能力とか伝説の聖剣とか。


 そんな事を思っていると該当する能力が検索に引っ掛かり出てくる。二桁のポイントだが大した能力でないものや特殊な条件下で発動するものからゼロが五個や六個付くけど使い勝手のいい能力まである。そんな能力を一つ一つ確認していくと人間飽きてきてくだらない想像もするもんで、


 どうせなら女の子からモテモテになる能力とかあるかな。可愛い女の子と一緒に冒険してハーレムを築くとか最高じゃね?


 なんてよこしまな妄想をしてみるとそれに該当する能力が現れた。


「あるのかよ!!」


 つい声に出して突っ込んでしまった。ヘメラさんを見ると笑顔でこちらを見ている。もしかしてこの検索結果彼女にも筒抜けじゃないだろかと不安になりつつもせっかく出てきたので確認する。

 相手の好きな人に見える幻覚魔法や、相手に好印象を与えるセリフを選択肢から選ぶと勝手にいい感じの会話をしてくれる能力。自分の好みの姿をした妖精を生み出す能力など様々だが、最低でも数万ポイントが必要なものばかりだ。そんな中、九が七つ並んでいるここが上限いっぱいですよと言いたげな能力が一番下にあった。それは……。


「女神のうつ召喚」


 能力は女神ヘメラの力の一部をこの世に人として召喚するというものだ。


「あれ、これが出来るんならヘメラさんが直接魔王退治に乗り出せるんじゃ?」


「いえ、それは世界が耐えられるレベルまで抑えた力の一部を転生させて世界に送るというもの。私の知識の全てを受け継いでいる訳ではないのでどんな性格をした者か分かりません。もしかしたら魔王以上の災厄となるかもしれぬもろ刃の剣なのです。しかしその本の力で貴方に呼んでもらえば少なくとも貴方のいう事には耳を貸すでしょう。そしてどんな子だろうと悪い結果にはならないはずです」


 絶対服従ではなく耳を貸すレベルか……。もしかしたらヘメラさんは最初からこの能力を俺に取らせて分身の見張り役として俺を選んだのではなかろうか。それならそれで楽でいいが。


「じゃあこの『女神の写し身召喚』にします」


 それにヘメラさんは美人だし胸もデカい。こんな女性のそばにいれるなら多少の事は我慢できるぞ。


「わかりました。では最後に貴方が転生する種族を選んで下さい」


「種族?」


 そういえばエルフがいる異世界の書き込みの事を出してたな。って事はもしかして……。


「いるんですか、エロフが」


 オークに襲われる薄い本展開をこの目で実際に見れる日も来るんだろか、または植物モンスターのつるに絡まれる展開が……。


「そこまで見れるかわわかりませんが、いますよエルフ。この世界には五つの種族がいます。細かい事は転生してから向こうの世界で学ぶでしょうから省きますが、まずはヒト族。これは今の貴方と同じただの人です。能力は平均的で飛びぬけたものはありません。寿命は八十年ほどで他の全種族と交配が可能なのが特徴です」


「わざわざそれを言うって事は他の種族は他種族との交配が制限されるってことか?」


「他の種族は同族としか交配できません。行為自体は可能ですが子どもが生まれないんです。これには種族が増える原因になった精霊神が関係しています」


「精霊神?」


「ここまで言ってしまったので説明しますが、精霊神は最初世界が出来た時に星を生き物が住める環境にするために神が創った存在です。光、闇、水、火、土、風。の六体がいたのですが、生き物が生活できる環境が整い暇になった精霊神達の内、闇の精霊が動物や人をモンスターに変えたんです。そうしたら光以外の四精霊神も面白そうだと人や動物をいじりだしたんです。そうしているうちにのんびり屋な光の精霊神も『僕の考えた最強生物』とか言い出してドラゴンを作り出したんです。これを見た神の一人がこの世界を真似て創った精霊界に精霊神の体を砕いて創った精霊を解き放ったのです。これから貴方が行く世界と精霊界は一部で繋がっているので運が良ければ精霊界にも行けるかもしれません」


「つまり他の種族がヒト族とだけ交配出来るのは元が全部ヒト族だからってのと他の種族はいじった精霊神が違うから異なる部分が多すぎて上手く子供が生まれないってことでいいのけ?」


「そういうことです。では話を戻しますが、風の精霊神が創ったのが獣人属。風の子は飽きっぽい性格だったので猫や犬、兎やマグロなど色々な種類の獣人がいます。どんなに修行しようと魔法は使えないのだけども身体能力が高く、寿命は三年から四十年まで参考にした生き物によって違います。特殊な能力も動物によって少しずつ違っています」


 魔王を倒す都合から平均寿命三年ってのは厳しいな。屍を越えていくゲームじゃ無いんだから後世に期待するわけにはいかないのだし。それに魔法のある世界に転生するのに魔法が使えないなんてだめだ。


「次にエルフですね、こちらは逆に身体能力は低いですが魔力に優れた種族です。寿命は百二十年ほどで魔法の威力にボーナスが付きます」


 魔法使いか。とりあえず全種族聞くとして候補としてはいいな。


「土の精霊神が創ったのがドワーフ、身長は小さくスピードは低いですが攻撃力と防御力が高く、手先も器用です。土の子の影響で凝り性で研究熱心な者や多く、寿命は百六十年ほどですね」


 魔法も使えて攻撃力もある寿命も長いな。低身長なのが迷い所だな。


「最後に火の精霊神が創ったオーガ族ですね。火の物を燃やして威力を増す性質を参考に、この種族の男はある条件を満たすと他の種族をオーガ族に変えてしまえる能力があります。そのため同じオーガ族でも親によって能力が変わります。寿命は百三十年ほどです」


 これだな。親を選べれたら欲しい能力を高めで生まれる事も出来そうだ。ある条件下で他種族を変える能力があればオーガでもエルフや獣人属のケモ耳美少女とキャッキャウフフ出来る可能性があるって事だろ。


「オーガ族がいいです。ちなみに能力はこっちで選択できますか?」


「高くしてほしい能力を二つ、低くても構わない能力を二つ選んで下さい。候補は攻撃力、防御力、素早さ、体力、魔法量、魔法攻撃力、魔法抵抗力、幸運です。もちろんこれは成長のしやすさに関係するだけで修行する事で弱点を克服することも可能です」


「そうですか。それじゃ攻撃とスピードを上げて防御と魔法抵抗力を下げてください」


 スピードを上げる事で当たらなければどうってことない作戦だ。それに訓練する事である程度は補えるなら将来的にはきっと大丈夫だろう。


「では頼みましたよ。世界をお願いします勇者様」


 俺の周りを光の柱が包み、体が宙に浮かんでいく。


「ここまでしてもらったんです。必ずヘメラさんの期待に応えられるよう頑張ります」


 こうして俺の新たな人生が始まるのだった。

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