第8話 200回忌

医療センター脳外科一般病棟312号室


ひとみは、扉からコッソリ中を覗いた。

義明は、背中を向けて寝ている。

頭頂部のタンコブが痛々しい


『義明に会うのめちゃ遠かった!まさか新幹線乗り継いで5時間って

日本って広いわぁ。

せっかく、お見舞いに来て殴り倒して終わりも洒落になんし。

あと、報告もあるし』


意を決して、ひとみは、動いた。

「だーれだ。てへっ」背後から目隠し。

余りにベタで、返事に窮する義明。


身体の向きを変えて『にゃーにゃー』と返事をした。

バカカップルである。


ひとみ「さっきは、ゴメンナサイ。

ドクターに叱られたぁ。ついでに病状教えてもらった、死ななくて良かったね。

「あと、脳出血患者を殴るなと言われた<(_ _)>」

「あと、報告が」←しんみり


義明「遠路はるばるありがとう。報告って?まさか俺の子?」 

ひとみ「バカ」厚い本を振り上げた。

トドメを刺そうか?

『これで、殺人ってやばいなぁ』

踏みとどまった。


深呼吸で、自分を落ち着かせて


「義明、三毛猫丸 唐津湾の海難事故。本当に、あったのよ。」

おもむろに新聞を取り出した


佐賀日報9月20日

『日本初のロイズ海難事故保険適応の事故から200年』『三毛猫丸200回忌、遺族が挨拶。船長の英断が船団を救った』『失われた左足を探して500万懸賞』


固まる、義明

「有ったんだ。なぜ夢でるかなぁ」

ひとみが、推理を披露する。

椅子に座り、眠りの小五郎口調で語り出す。


「義明さん。アナタが脳出血を起こし死にかけた200年前の同時刻。唐津湾は、地獄と化していたのよ。多くの魂がさまよっていた。死にかけたあなたは、タイムスリップしたのよ。おそらく魂が行き来できるようになったのね」

パチパチパチパチ((((*゜▽゜*))))

えっと、ひと五郎さん。

義明が、おずおずと発言した。

「失われた左足、どこにあるか知ってるよ」


固まる、ひとみ


義五郎が、語り出す。


夢の中で、義明は何度も見ていた。義之助は、最後まで三毛猫丸を操舵していたが、突っ込んで来たガリオン船の船尾は、容赦なく三毛猫丸を木片に変えた。木片は、鋭い凶器となり、義之助の左足を、切り落とし、入り江の奥の岩の間に飛ばした。

そして、月日が流れて、砂が堆積し出した。


と言うわけで、東の入り江のこのあたり

鉛筆で絵を書き出す。

干潮時で水深30センチ。


淡々と、事実を報告する義明

あと、湾内沈没船の位置と積載品も知ってるよ。


余りに重大な事実を語るも

事の重大なことに無頓着な義明である?

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