第5話 嵐の跡

夜半から未明に吹き荒れた暴風雨は、強風のみを残しおさまりつつあった。


本町通りの三毛猫屋の戸口を激しく叩く音、

『女将さん大変じゃ』

『湾で海難事故じゃ』

『死人や怪我人が大勢 浜に』

騒ぎを聞きつけ 女将の ひとみ が木戸を開けた。ボロボロになった、三毛

猫丸の船員が倒れ込む。

身をひるがえし、店の番頭さんを大声で呼ぶ。

そして、奥の間に向かい

義之助と相談して決めた海難事故対処法の

書付を取り出す

『湾で海難事故の際は店に対策所を設ける』『浜に人を派遣し被害を把握』

『死傷者は速やかに奥の間に収容せよ』

『町医者を呼び出し治療を施し』

『家族に知らせるべし』

『三毛猫屋の船が遭難したら、長崎のロイズさんに即知らせよ』

『分かる範囲で被害を書付よ』


ひとみは。書き付けを胸に抱きしめ

気丈に、指示を出す。

「浜に行きます。籠と大八車 あと、若い衆をできるだけ用意して」

「奥の間を片付けて、布団をあるだけひいて」

「お医者様を呼んで来て。浜と店に欲しいから2人お願い」

言い終わると、女将は、走った。浜に向かって走った。ボロボロ涙が止まらない


きっと生きてる、生きているはずや。

あの人は、約束した。私より先に死なないと。同じ悲しみを 二度と無いようにと。

『死んでたら、殴り倒してやるんだから』

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