何気ない言葉に宿る大切な意味が、読み手をしっかりつかまえるような短編

新撰組の剣豪であり、労咳を患い若くして夭逝したとして知られる沖田総司と、その看病を任された京育ちの娘、花乃さんのお話です。
花乃さんはほとんど食事を取らない沖田の体を案じ、どうしたら食べてくれるのか考えます。

何気ない、ちょっとした感謝の言葉が、それでも大切な意味を持って心に迫ってくる、というのを無理なく書かれた素敵な作品です。

山南敬助の死や病による容貌の変化からは、沖田の心に落とされた影がちらつき、それを心配する花乃さんの気持ちは、真剣に医師に食事の相談をしたり、丁寧に丹念に作り上げたことが分かる軍鶏鍋の記述から、たいへんによく伝わってきます。
そういったものの積み重ねがあったからこそ、終盤でふと沖田が差し出した「御褒美」や言葉が、爽やかに涼やかに胸に来ます。

また、剣豪である沖田は、病でもそうでなくても死に関わっていなければならない、そのことが兄のように慕っていた山南の死と重なってよく伝わってきました。

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