優しさに胸が震えるから、

新撰組の沖田総司と言えば、その剣の腕と後年病に倒れたことは有名な話だ。
この方の作品を拝見するといつも思うのだが、何かしら透明な、痛いほどの静けさが今作にも漂っている。
この作品は、病床に在る沖田と花乃という女性の交わりを綴ったもの。
花乃は15歳だけれど、この頃の15歳は今の25歳よりも人間的に余程成熟していると私は考えるので、女性という呼称を使わせていただく。
花乃は言わば被害者だ。
原因の一端は新撰組であったから、沖田は加害者となろう。
そのふたりが出逢い、花乃は沖田の世話をするようになる。
沖田はどんな思いで笑っていたのか。
花乃はどんな思いで叱っていたのか。
花乃については作中触れられているが、沖田の思いは想像の域を出ない。
病が影を落とすなかで、紡ぎ出される美しい情景。
花乃の想いと、それを見つめる沖田の瞳。
丹精を込めた軍鶏鍋と、不意にかけられた言葉。
最後に花乃が呟く「いけず」という一言に、すべてが籠められている気がした。

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