「自分」と異なる価値観で生きる人が居ることを知りたい、認めたい。

「好き」になる気持ちに理由は不要で、
「好き」の多様性は無限に開かれています。
心の扉の内側に閉ざしておかなくてもいい。
多種多様な人がいるからこそ、世界にはかけがえのない愛が充ちているのです。

物語は1組の男女の「別れ話」から始まります。
この「別れ話」が、新たなる「出逢い」と「価値観」に繋がっていきます。
26歳の拓海が好きになったのは「雪の世界に住む、美しい動物」を思わせる21歳の男の子。
拓海の彼女である花絵が好きになっていたのは「すらりとした長身のずば抜けた」26歳の男前な美人。
想いを寄せ合う男×男、女×女。そんな2組のカップルの共同生活とは如何に!?

三角関係ならぬ四角関係の末に、手探りで「ほんとの春」を探す4人のキャラクターが活き活きと描き出されています。
ここには、好きな人を「幸せにしたい」、「失いたくない」という想いが重なり、かつての恋愛の形式から新しい恋愛の形式へと進化していく「人間の強さ」がありました。
タグに「LGBT」、「BL」、「GL」とありますが、過激な物語ではなく、むしろジェンダーへの戸惑いと格闘する過渡期の若者たちの心模様が描かれているゆえに、どのように愛と想いを解きほぐしていくのか、導入部分を読めば結末を見守りたくなるでしょう。

「常識」という、あってないようなもの。
しかし、生きていく上で切り離せないもの。
確かで不確かで、だけど私たちの心を時として自由にさせないもの。
そんな「常識」に屈するのでも諦めるのでもない愛と想いが此処に結晶しています。
物語の中で「性的指向はグラデーションを描く」という言葉に出会いました。
これはアメリカの性科学者であり動物学者のアルフレッド・キンゼイの言葉。
人間の性的指向は、白か黒か、ではなく、グラデーションであり、
それは男か女か、ではなく、両方、持っていてもいいということ。
aoiaoiさまの『ほんとの春を探してみたら』は、グラデーションを強く美しく感じられる小説です。

性別にこだわらず、ありのままの個人を守りたいと願った彼等の共同生活、その未来の「ほんとの春」に、ふんわりと寄り添う時間、心あたたまる春の幸福を是非、多くの方に味わっていただきたく思います。

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