ここで再びスタートを切る。28歳駆け出しカメラマンも、斜陽の商店街も。

商店街は、暮らしの中で身近な存在だろうか?
そうでない人が多いのではと、経験的に思う。
往時のにぎわいを保つ商店街はどこにもないだろう。
新しい形で活性化に成功した商店街はあるけれども。

本作は、昔ながらの写真屋3代目が本屋店主である親友と共に、
つまずきながらも商店街の活性化に奔走するストーリーだ。
老いた両親、彼を取り巻く商店街の面々、バーを営む親友、
そうした登場人物のひとりひとりが生き生きと描き出される。

不倫の恋に破れて故郷の北海道に舞い戻った主人公、憲史。
生まれ育った商店街では皆、「厳しい状況だ」と愚痴をこぼす。
実家や親友たちの店を手伝い、商店街の理事会に顔を出すうち、
憲史は、動こうとしない商店街の古株勢に苛立ちを覚えるが──。

仕事、家族、恋、友情と、21世紀的な地域のつながりのあり方。
多様なテーマが提示され、憲史の奮闘や葛藤を通して描かれる。
前に進もうと勢いづく勇気、変わらぬものを守り続ける勇気、
人と向き合うこと、自分と向き合うこと、居場所に気付く瞬間。

商店街の人間模様に加え、冬から夏へと移ろう季節感がいい。
私は九州の生まれ育ちなので、寒い地域の暮らしを知らない。
冒頭にサラリと書かれた雪かきの描写ひとつ取っても興味深く、
時おり差し挟まれる道産子訛りをこの耳で聞いてみたくなった。

それと、地元産ジャガイモのコロッケがおいしそうでした。
洋子さんのコロッケを店先で、はふはふしながら食べたい。

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