海のblueと青春のblue、2つの青い魅力が胸に迫る

島育ちの私にとって、海は身近なものだ。
とはいえ、海は、生きる糧を得るための場所であり、
遠方とを結ぶ交通の幹線であり、遊び場でもあって、
ダイビングや水族館といったレジャーとは無縁だった。

海の、馴染みのない魅力を見せてもらったように思う。

主人公、蒼衣は頭もいいし体も強い、いわばハイスペックだが、
プライドの高さゆえに就職活動に全敗した上、バイトも続かない。
海に出ては素潜りで青く暗い世界へ入り込むばかりの蒼衣に、
ある日、父親の伝手でドルフィントレーナーへの道が示される。

過酷とも言える水族館の業務の様子、人好きのする仕事仲間、
イルカたちの賢さと可愛らしさ、次第に変化する蒼衣の意識。
しなやかに整った筆致で紡がれるストーリーは爽やかで力強く、
頑なだった蒼衣が失敗しながらも前に進む姿に胸が熱くなる。

本作を3部構成に分けるなら、ドルフィントレーナーになるまで、
水族館勤務での奮闘、イルカのビビとの絆の再確認、となるが、
タイトルに冠せられた「blind」の意味が明らかになる第3部は特に、
小説ならではの葛藤する心の声が強く描かれ、迫力に満ちている。

海のblueと青春のblue、2つの青い魅力が詰まった作品。
暑い夏にピッタリの、全力投球で若々しいお仕事小説。

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