彼にしか作ることができない物語――カクテルが、ここにある
- ★★★ Excellent!!!
カクテルとは、何だろう?
カクテルは、材料も変わる、作り方も変わる、ときに作る人によっても変わるものだ。
確かなのは、『混じり合う』ことである。
人もまた同じだ。
ひとつの材料ではカクテルは成立しないように、男がいて女がいて、愛情を混じり合わせることで、アルコールのように酔わせてくれる物語となる。
ビルドのように、甘く。
ステアのように、優しく。
シェイクのように、激しく。
ときに、酸味や苦みの口当たりを与えてくれるエピソードもある。
大人の恋だ。
グラスの中の液体のように揺れ動き、愛を問い、愛を乞う。
相手が異なったり、想いの温度に差があったり。純粋なだけでは成り立たない。
ところが、カクテルを作る氷には、不純物がない方が良い。
登場人物たちの想いの根底にあるものも、そうなのだろう。
お仕事小説か、と問われると弱い部分があるかもしれない。
舞台が一貫してバーであるわけでもないし、音楽で大成しているわけでも未だ無い。
その前段階のプロセス。好きなことを、音楽を奏ながら、出会う人々とセッションを重ねていく青春サクセスストーリーとして、或いはプレお仕事小説として、私は読む。