彼にしか作ることができない物語――カクテルが、ここにある

 カクテルとは、何だろう?
 カクテルは、材料も変わる、作り方も変わる、ときに作る人によっても変わるものだ。
 確かなのは、『混じり合う』ことである。

 人もまた同じだ。

 ひとつの材料ではカクテルは成立しないように、男がいて女がいて、愛情を混じり合わせることで、アルコールのように酔わせてくれる物語となる。

 ビルドのように、甘く。
 ステアのように、優しく。
 シェイクのように、激しく。

 ときに、酸味や苦みの口当たりを与えてくれるエピソードもある。
 大人の恋だ。
 グラスの中の液体のように揺れ動き、愛を問い、愛を乞う。
 相手が異なったり、想いの温度に差があったり。純粋なだけでは成り立たない。
 ところが、カクテルを作る氷には、不純物がない方が良い。
 登場人物たちの想いの根底にあるものも、そうなのだろう。

 お仕事小説か、と問われると弱い部分があるかもしれない。
 舞台が一貫してバーであるわけでもないし、音楽で大成しているわけでも未だ無い。
 その前段階のプロセス。好きなことを、音楽を奏ながら、出会う人々とセッションを重ねていく青春サクセスストーリーとして、或いはプレお仕事小説として、私は読む。

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