初めに書いておくが、本作はめちゃくちゃ面白い。
その完成度は、すでに商業作品として出版されていても可笑しくないレベルであると確信している。
本作は『純愛』『お酒』『音楽』の三本柱で構成されているのだが、私は『音楽』や『カクテル』について全くの無知である。だというのに、主人公の奏汰が少しづつステップアップしていく様や、筆舌に尽くしがたい『粘り』などの感覚的技術まで作者は見事に書き表している。
カクテルについても同様だ。全く知らないお酒なのに、そのシーンに相応しいチョイスがされているのがわかる。なぜか雰囲気で。そうした筆力も凄いのだが、凄いのは何もそれだけではない。登場キャラクターや話の構成も凄いのだ。
主人公の奏汰は夢見るバンドマン。まだ若い彼は、周りの大人たちと比べて頼りない存在に見える。現に奏汰が年の差で悩む姿や、自分の音楽を見つけていく過程で彼女である連華の言葉を素直に受け取れなかったりと、読者にモヤモヤとした感情を抱かせる。一思いに突き進めよ、と何度思ったことか。
対して、奏汰の彼女である連華はさすが大人の貫禄である。序盤、奏汰を手玉に取る様子にはニヤリとさせられ、中盤では奏汰の良き理解者として背中を押してくれる。しかしそんな彼女でも、裏では同僚の優に慰めてもらったりと、読者に弱さを見せつける。いつしか奏汰同様に、私たち読者も彼女の魅力にノックアウトだ。
他にも魅力的なキャラクターが数多く登場する。ちなみに私のお気に入りは優と翔だ。
と、最後に構成についてもお話しよう。
この物語はひとこと紹介でも書いたように、様々なハードルを乗り越えていく成長物語だ。それは年の差であったり、バンドについてだったりと、『音楽』と『恋』のどちらか、あるいはそのダブルパンチだったりする。片方がうまく行ったら片方がうまく行かない……そんな吊橋を渡るような絶妙なバランスで成り立っている。どちらかに振り切ってしまうのではなく、どちらもうまく絡めて来るのだ。
なので、読者が退屈するシーンというのが一片たりとも存在しない。常にハラハラさせられたりワクワクさせたりしてくれる。演奏が上手くいった時なんかは保護者視点で「よくやったな」と褒めてあげたくなる。それは奏汰が頑張っているのを身近に感じるからだ。……おっと、また作者の筆力に戻ってしまったので、ここらで勘弁しておこう。
本当に素敵なお話でした。
年の差、しかも女性の方が年上という大人の葛藤や年下男子との感性の違いも鮮明に描かれていて、読んでいてとてもドキドキしてしまいました。
そんな物語のところどころに登場するカクテル。その時々の雰囲気や展開に合わせて作られるカクテルは、読み手もその場と同じ気持ちにさせてくれます。
音楽とは人の心を打つものです。それをここまで綺麗に美しい表現で文章として魅せて頂けるとは。いやはや感服致しました。
夢とは何か、音楽とは何か、恋愛とは何か、人生で必要な多くのことに向き合える作品となっております。
ぜひ、多くの方の目にふれますように。
カクテルとは、何だろう?
カクテルは、材料も変わる、作り方も変わる、ときに作る人によっても変わるものだ。
確かなのは、『混じり合う』ことである。
人もまた同じだ。
ひとつの材料ではカクテルは成立しないように、男がいて女がいて、愛情を混じり合わせることで、アルコールのように酔わせてくれる物語となる。
ビルドのように、甘く。
ステアのように、優しく。
シェイクのように、激しく。
ときに、酸味や苦みの口当たりを与えてくれるエピソードもある。
大人の恋だ。
グラスの中の液体のように揺れ動き、愛を問い、愛を乞う。
相手が異なったり、想いの温度に差があったり。純粋なだけでは成り立たない。
ところが、カクテルを作る氷には、不純物がない方が良い。
登場人物たちの想いの根底にあるものも、そうなのだろう。
お仕事小説か、と問われると弱い部分があるかもしれない。
舞台が一貫してバーであるわけでもないし、音楽で大成しているわけでも未だ無い。
その前段階のプロセス。好きなことを、音楽を奏ながら、出会う人々とセッションを重ねていく青春サクセスストーリーとして、或いはプレお仕事小説として、私は読む。
バーでアルバイトをする奏汰くんのミュージシャンとしての、そして人間としての成長が描かれており、その軸になるのは大人の恋愛。
恋愛に対して余裕を見せる大人たちに少しでも対等でいようと背伸びする奏汰くんの葛藤も面白いし、純粋に音楽仲間が揃っていき、バンドとして成長していくお話も楽しめます。
バーというゆったりとした空間にマッチしたキャラたちも、物語の世界観を惹きたてていて魅力的です。
個人的には、大人の恋愛ってなんだろう、純粋なだけでもいいじゃないかって、読んでは立ち止まり、考えさせられる奥深い物語だという印象を受けました。