いろんな立場や考え方の人がいる。だから、バランサーが必要だ。

退職願と退職届と辞表は各々違うらしいが、とにかく書こう、
という、けっこうかなり衝撃的なシーンから始まるお仕事小説。
「ちょっとおかしいんじゃないか」と上役に直言した主人公は
あわや失業の崖っ淵から専従へのヘッドハンティングを受ける。

専従とは、企業内の労働組合に専門的に従事する人のこと。
大企業における企業内組合がどんな仕組みになっているのか、
右も左もわからないながら取り敢えず走り出す主人公と共に、
読者は(おそらく)馴染みの薄いお仕事の世界にいざなわれる。

組織の概略や力関係、企業内外の制度等に関する説明は多いが、
ストーリーに沿った上で的を絞った解説はとても読みやすい。
私は企業に在籍する身ではないから、あれもこれも新鮮で、
知らなかったこと、感心すること、驚かされることだらけだ。

周囲の人々との協力、共闘、理解、あるいは対立や反駁を経て、
論理と倫理と感情と利害を調整して、最適な環境を手探りする。
主人公、丸井の仕事がこれからどんな形で結実していくのか、
組合を巡る人間関係がどうなるか、最後まで目が離せそうにない。

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