多分誰もが、誰かに対して手紙を書いている。

大罪人として閉じ込められた科学者たち。
その中の一人輝男は、脱獄を決意します。
しかし彼らが住める場所は地球上どこにもない……そんな中彼は、まだ誰も見つけたことがない『アトランティス』への移住を提案するのです。
彼は実は、アトランティスに行ったことがありました。
しかも、証拠品も持ってました。
それが今作のタイトル、『アトランティスのつまようじ』。実はこれ、ダイヤモンド。しかも不可能であるはずの「二次元の傷」がついていて、しかもしかも「アトランティスについて」のことが書かれていたのでした。

輝男は、順風満帆な人生を送ってはいませんでした。
母や「おばあちゃん」は無関心、教師からはいじめられます。弁明しても「嘘つき」と呼ばれ、泣いても笑っても否定される。
言葉とは、ちっとも便利でもなくて、不確かで、簡単に踏みつけられるものです。
でも彼は、暴力よりも言葉の力を信じ続けます。


輝男は発明の天才ではありますが、あまりに真面目な人間なので、お金を儲けようとして発明するのはとても下手くそです。
ただ、好きな女の子やお世話になった人にプレゼントしたかったのです。この物語は、「大切な人を助けたかった」ために脇目も振らず研究し、そして政府によって悪用され、大罪人となった科学者が多くいます。
科学者たちがいなかったら悪いことはなかった。そうかもしれません。
でも、「大切な人への手紙を書くこと」を、「悪」だなんて言えるでしょうか。

人が人へ伝える方法は、言葉だけじゃなくて、
音楽だったり、料理だったり、演技であったり、物であったり、結果であったり、ただそこにいて、視線を交わすことだったり。

長く語りましたが、世界は実は狭くて単純で、誰かに何かを伝えたくて、何かをなそうとしているだけなのかもしれない。
「アトランティスのつまようじ」もまた、手紙であったのだから。

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