赤い撃墜王が指南するのは人心の操縦術?!

 主人公の祖父は、自分で博物館を作ってしまうほどに筋金入りのミリタリーオタク。ただし、守備範囲は、おそらく飛行機の歴史がスタートした1903年から第一次世界大戦まで。博物館に展示されているものと主人公である孫の名前を見れば、それは一目瞭然です。

 おじいさんの趣味が思い切り込められた名前の主人公は、彼の博物館でアルバイトをしています。しかし、往年のレシプロ機が好きなわけではなく、ただ「彼女」に会いたいから――。草食系を自認する心優しい主人公を応援するのは、なんと展示されている赤いレプリカの三葉機。正確には、かつてその実機に乗り第一次世界大戦の空を駆けた撃墜王の霊!
 撃墜王のバロン男爵は、現役時代(ただし百年前)は高身長&ハンサムだったそうです。そんな彼がさぞかしストイックに説教をたれるのかと思えば、なかなかにひょうきんで軟派なトークが笑えます。シャイな主人公と生真面目すぎる「彼女」の間を近づけるために撃墜王が考えたアイデアは……。

 こういうお話、大好きです。飛行機好きにはたまらないです。「彼女」が飛行機(レプリカですが)に触れながら当時に思いを馳せる、という構図も大好きです。
 個人的な話になって恐縮ですが、その昔に某航空宇宙博物館で、かつては空を飛んでいたレシプロ機が静かに展示されているのを見たことを思い出します。作中の「彼女」のように展示品に触れることはできませんでしたが、昔は敵同士として戦っていた飛行機たちが仲良く並んでいる様を目の前にして、平和な時代に生きるありがたさを実感したものです。