第8話 やれやれ、これだからお兄は
「ん〜、おいしー!」
程良くケチャップの混ざったチキンライス、その上に乗っかる
「へー、こんな店ができたんだな、オムライス専門店?って言うのか」
「うん、雑誌とかに特集も組まれててクラスの子とかもきたがってたんだよね」
「そんなに人気なのかここ、確かに混んでるな」
あたりを見回しながらお
「お待たせしました」
そう言ってフリルの白いスカートの制服着た綺麗な黒髪のお姉さんがお兄の頼んだオムライスを持ってきた。
「あれ、もしかして店員さん……」
「あ!夢人君と夢葉ちゃんだ!!2人でお昼食べにきたの?」
そのお姉さんは、前に家に来ていたお兄の友達だった。友達と言っても、友達以上恋人未満な関係だと思う。このあいだも月さんが帰ったのとすれ違いで帰って来たんだけど、その時のお兄ったら顔真っ赤にしてた。何があったのかはわからないけど、好意がなければあの顔にはならないはず……。月さんも月さんでお兄のこと良くは思ってるから、両片想いって所かな。
「夢葉のショッピングに無理やり連れて来られたんです。先輩バイトしてたんですね」
一見冷静風に言っているお兄の顔が若干赤い、多分スカート姿の月さんに見惚れてるな。
「家にいても退屈だし……、それに!ここの賄い目当てで、それじゃ仕事に戻るね、ごゆっくり」
お兄のオムハヤシを持って来たお盆を胸に抱え忙しそうに戻っていった。
「ねぇ!最近どうなの?」
「どうって何が?」
キョトンとしている。そんな演技、夢葉には通用しないんだから。
「プロファイラー夢葉の眼は誤魔化せないよ、月さんとのこと!」
「なんだよ、プロファイラーって」
「それはどうでもいいの」
「まぁ今度出かける約束くらいしかしてないけど」
「それってデートじゃん!?何が、『まぁ今度出かける約束くらいしかしてないけど』だよ」
「今の顔何?とても不快な顔だったよ。せっかくの可愛い顔が台無しだよ」
「ムッ……お兄の真似だよ!」
ったく、どこまでいっても鈍感系男子を装うとするんだから……。
「美味しかった〜、オムハヤシという新天地だったが当たりだったな」
大のハヤシライス好きのお兄が至福そうな顔をしてそういうのだから、ここはやっぱり美味しい店なんだろう。そんなことより!
「お兄ってさ言うのは気が引けるけどさ、洋服全然持ってないじゃん?あたりさわりのない普通の服しかさ」
「おい、全然気が引けてないぞ、ズバズバ言っちゃってるよ」
お兄が多少の精神的ダメージを受けているが関係ない。今はそんなの問題じゃない。
「なので、お兄の服を買いに行こう!コーディネートは夢葉には任せて!」
「いや別に、家にあるのでいい」
「いやでも別でもないの、これはまだ夢葉の頼みの途中なんだから」
渋々といった感じだがなんとかお兄を洋服屋まで連れて来た。
「なんだってまた、僕にオシャレさせようとするんだ」
「は〜」
「なんだよその、やれやれこれだからお兄は的なため息」
「やれやれこれだからお兄は」
「本当に言ったし!?」
これがただの女友達とのデートならいつものでもいいよ、でも相手はあの月さん。あの人が着るならどんな服でも最先端ファッションになりそうだし、そんな人と普通の格好で歩いてるお兄を想像したら可哀想でいてもたってもいられなくなった。
「これは、妹としての夢葉の戦いでもあるんだよ!」
そう、これは勝負なのだ。お兄はそんなに熱くなって……、みたいな顔してるけどあの人と並んでもおかしくない格好をさせてあげないとね。
「うむ、爽やかで春を先取った、それでいてお兄にも似合うくらいの派手さ、これに決めたよ」
「服屋にはいるなり取っ替え引っ替え、夢葉の時より長いんじゃないか?」
「月さんに勝つには仕方ないの!」
「なんだ、勝つって……」
「こっちの話!それじゃあこれ着て、デート行ってきてね」
「デートじゃなくて、ただの先輩の手伝いなんだけどな」
そうは言ってもお兄の顔は少し
冬が終わってもどこか退屈そうな顔をしていた私の兄がある日、髪を濡らして、だけど楽しそうな顔をして帰ってきた。兄の退屈を壊したのはあの人なのだろう。だから兄の手を引っ張るのは私ではない、私にできるのはこの心地よい春の風と共に背中を押してあげる事だ。
「どうした夢葉、ニコニコして」
「なんでもないよ!」
そう言うと私はお兄の背中を叩いた。桜舞う遊歩道の中、2人の談笑は舞い散る花びらと一緒になって消えたとさ……。
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