第10話 ゲームセンターに行こう 終

 あかり



 かつて人が住んでいたとは思えないほどに荒廃した街、すさぶ砂嵐の中飛び交う銃弾。物陰からこっそりと奴に近づく、よし、今だ!

 パァンッッ!!


 画面に表示されるは『YOU W勝利IN!!』の文字、サバゲーと呼ばれるこのゲーム私は勝利したのだ。

「あーー……まさかそこから出てくるとは」

「フッフッフッ、この勝負も私の勝ちだね」

「僕もあまりゲーセン来ないですけど、まさか初めての人にことごとく負けるとは思ってもみなかったです」

 ゲーム機の上に肘を置きガクンと肩を落としている。それもまぁマ○オカート、太鼓の○人、ストリ○トファイタ○ズ、果てはモグラ叩きまで全てのゲームに対して大敗したので納得もできる。

「というかアレだね、夢人君弱いんじゃない?」

 その言葉を聞いた瞬間、ピクンと君のこと肩が揺れ、スイッチが入ったようにゆらりと顔を上げて喋り出した。

「自分で言うのも何ですけど、僕は友達と来た時だってそつなくこなして1番ではなかったけど2番目に上手かったんですよ、勉強、スポーツ、ゲームetc……とにかくなんでも中の上くらいなのに、先輩に対してはどの分野ジャンルも勝てない……、なんですかそのぶっ壊れチートスペックは!? もう凄すぎて尊敬すら通り越して畏敬いけいの念すら抱き始めてますよ!」


 息を荒げて言い切った、あまりの勢いに私は身体をそっていた。

「いや、もう途中からベタ褒めじゃない。それに私は神や仏じゃないんだけど……」



 一通りのゲームをこなした私たちは「疲れました」という夢人君の発言からベンチに座って休憩することにした。

「もう19時半ですねー」

 その手にはポケットから取り出したスマホが握られている。

「もむもんまみまんまんま、みゃ、ももももまめむ?」

 大きなぬいぐるみをモフモフしながら答える。

「顔が埋もれてて、何言ってるかわからないんですけど……」

「もうそんな時間なんだ、じゃ、そろそろ帰る?」

「まんまリピートするんすね」

 ぬいぐるみで遮られた視線の端に苦笑する君の顔が見えた。

「ちょっと席外すので、荷物見ててもらっていいですか?」

「もい! (御意!)」


 来た時には人がいっぱいいたのにふと辺りを見ると人は少ない。そんなになるまで遊んでいたのかと、ふふっと笑ってしまった。

 ぬいぐるみを隣に置き、パタパタと足をぶらつかせて、暇を潰した。そうしてるうちに、なんとなくこっちを見ているような視線を感じた。遠くにいる男の人2人がこっちを見ながら話している。

「なぁ、おい結構可愛くね?」「1人みたいだし声かけようぜ」「だな」


「なあなあ、可愛いぬいぐるみだなぁ、それ以上に君の方が可愛いけど」

「なんだ、そのくっさいセリフ」

 ニヤニヤとゲスい笑顔の2人が近づいて来た。君らの存在そのものが臭いと言い放ってやろうか、と思った。

「君らの方が……ッ」

ガッ、と強く肩を押さえつけられる。

「え?なに、声が小さくて聞こえないんだけど」

「んなことよりこれから3人でご飯でもどぉ?」

「そいつは良いや、まぁ、割り勘だけどな」

「ここで奢らないとかまじでウケる」

 すごく不愉快で不快なのに、それをビシッと否定する声が出ない。さっきから手や首すじに嫌な汗をかいている、足だってすくんで逃げることすらできない。

〈恐怖〉というものを感じていた。誰かに助けを求めたかったが喉が張り付いたように固まり声が出ない。

「早く飯いこーぜ」

「だな、じゃいこっか」

 そう言ってグイッと腕を引っ張られる。怖い、ただそれだけが頭を駆け巡っていた。誰か助けて!その言葉は自分の頭だけを反芻はんすうした。



 べチャッ

「大変お待たせしました。ご注文の品こちらでよろしかったでしょうか」

 その瞬間、とても嫌だった2つの顔が白いクリームに覆われた。

「夢人君!!」

「大丈夫でした? まさかこんな事フィクションだけの話かと思ってましたよ」

 こんな時でも、冗談混じりに話せるくらい落ち着いていて少しガッカリした。しかし、横目に見た君の顔は過去に見たことない程に憤慨ふんがいしていた。私はなんだかそれが嬉しかった。

「もがっ!!」

「ふざけてんじゃねえぞ!」

 クリームを手で拭って視界を開いた1人の男が突っかかってくる。


 ベチャッ

「ちゃんと味わって喰え」

 再度、あてられるクリーム。そして、男の突っかかってくる方向に君はすっと足を出して蹴躓けつまづかせた。

「ったく、ふざけてるのはどっちだか……先輩、もう一個あるんでぶつけちゃってください」

 ニコッといい笑顔で君から差し出されたクリームいっぱいの紙皿を受け取り倒れている男に振り下ろした。



「はい、それじゃ荷物持って、さっさと出ますよ」

「う、うん」

 グイッと手を引かれる。でもその手は先ほどの男とはちがい、優しく不快じゃなかった。


 外に出ると、不意に引っ張れていた感触がなくなる。

「あの、えと、勝手に握ってごめんなさい。先輩、動けなかったぽいし、つい……」

「いいや、ありがとね」

「ッ…はい! どういたしましてです」

「あっ! それよりさ、あのクリームどうしたの?」

「あー、それはトイレ出たところの近くでパイ投げ祭りっていうのやってて、そこの生クリームが美味しくて一緒に食べようかと思って何皿か持って来たんですよ、そしたら、先輩が絡まれてるじゃないですか! 驚きましたよ〜」

「そうだったんだ」

「はい、結局食べれなかったですね」

 にこやかに笑ってこっちを見る。その時、さっきの事を思い出して、顔を真っ赤にした。

「え!? どうしたんですか?」「なんでもない「なんでもないことはないでしょ、顔真っ赤ですよ」「だからなんでもないんだってば!!」



 知らない男に腕を引っ張られたあの時、誰かに助けてと心の中で叫んだ。そしてその瞬間、頭に浮かんだ、なんて言えるわけもない。

 ドンドンと、速く打ちつける心の鼓動を空に浮かぶ月を見上げ、ゆっくりと落ち着けた。


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time 〜僕と私の物語〜 夜ノ帳 @shosetu3776

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