第9話 ゲームセンターに行こう 始
……ピッ ……ピピッ……ピピピピッ!
「ん……ふにゅう……」
ガバッ!
スマホの画面を見て眠気が吹き飛んだ。
「寝坊だーー!」
今日が楽しみすぎて、昨夜はよく眠れなかった。やっと眠れたと思ったら寝坊だ……。せかせかと出掛ける準備をする。トーストが焼けた時のチーン!という音が聞こえて、トーストにマーガリンを塗る、それを牛乳と一緒に、パクパクと急ぎ足で食べる。TVニュースでは桜前線の話をしている。
「へー、ここら辺も今日から咲くんだ」
最寄り駅まで足早に向かう。タイミング良く来た電車に駆け乗る。安堵の息を漏らし小さいワンショルダーバッグからスマホを取り出し、息を整えながら君に遅刻のメッセを送る。
「ごめん、寝坊した!!今電車に乗ったからあと二駅でつく。5分くらい待ってて」
スマホをしまい、今度は手鏡と
ピロンッ!
ああ、夢人君からか。
「急いで来なくていいですよ、それより髪型崩れたりしてるんじゃないですか?」
その文の背景には少し生意気な君の顔が伺えた。というか、君の予測が当たりすぎて本当にドキッとするよ……。君の返信に反抗してもう一度手鏡と櫛を取り出し念入りに整えた。
「次は
よし!代々伝わる椿油の櫛でとかした黒ツヤロングを見せつけてやろう。
改札を出てすぐの所に君はいた。街灯に背を預けてスマホをいじっている。バレないように君の背後に回る。これまたバレないようにこっそりとスマホに文字を打ち込む。
「後ろを見て!」
送信っと。
ピロンッ!
今鳴ったのは私のスマホではない。私のメッセに反応した他ならぬ君のスマホだ。そしてその瞬間、私にそっぽを向いていた君の体はこっちを向いた。
「おはよ」
「ッッッ!!」
「私の可愛さに言葉も出ない?」
「それ、本気で言ってます?」
驚きの表情がパッと変わる。小生意気ないつもの呆れ顔だ。
「冗談、冗談!そろそろ行こっか」
今日はゲームセンターに行くことになっている。理由はまぁ、単純に私が言ったことがないからというだけなのだが。
すぐそこですから、と言って目的地の方向に顔を向ける。その時、君の顔から笑みが溢れていた。その笑みが、私に呆れてでた苦笑なのか、それともこれから2人で行く事への笑顔なのか、私は何故かはわからないけど後者であって欲しい。そう思った。
ヴィーン
少し厚めの自動ドアが機械音そのまんまを奏で、私を迎えてくれた。ドアが開いた途端鳴り響くジャラジャラとした金属音、他にもぬいぐるみの沢山入った巨大な箱からは可愛いbgmが流れている。店内には流行曲が流れているが、他の後に消され耳をすまさなければわからない。
「ここが……ゲーセン」
「そんなに目を輝かせるほどの所ですかね?」
「え、そう?目、輝かせてる?」
初めてきて少し感動してしまったのだ。この前見たアニメにもゲーセンに来る回があって、その時の光景とすごく似ていたから。
「ふっ、はいすごく」
「笑った!?」
「こらえようとしたんですけど、すみません無理でした」
「こんな騒々しくも現実離れした世界は聞いたことしかなかったから本当に存在してるなん……」
「ちょっ!まっ、待ってくださぃ、なんですか今の、ゲーセンへのレビューで1番良いんじゃないですか?」
どうやら私の反応はおかしいらしい、さっきから高校の後輩、しかも異性に腹を抱えて笑われているのだから。
「ひどい!流石にそれは笑いすぎ!!」
入り口からすぐ、それは「店はこれを売りにしてます!」と言わんばかりの存在感を放っている。
「どうしたんですか?これが気になるんですか?」
やっと落ち着いた君が後ろから私に問う。
「いや、この機械すごいなって思……」
今のはダメなきがする、多分また爆笑される。
「機械がすごい?クレーンゲームが?」
ほらもうキョトン顔。そこから笑いに行ってしまう。ていうかこの箱クレーンゲームって言うのね。
「機会ね!昨日CMで見てこのぬいぐるみ欲しいと思ってたの、そしたらここにあるもんだからさ」
「あ〜、機会ですか。今日び機会なんて言葉使う人いるんすね」
クスッと君がまた笑う。どっちにしろ笑われるのかよ!
「で、これが欲しいんですか?先輩」
「え、うん欲しいけど難しそうだよねぇ」
CMで見たのは嘘だけど、実際このぬいぐるみは可愛いと思う。
「わかりました」
そう言うと急に真剣な顔になり、ぼそぼそと独り言を始める。
「ぬいぐるみの大きさは60センチ強、アームの強さは推定2N、このタイプのクレーンゲームの可動域は……」
クレーンゲームの周りをぐるぐるしながら何かを計算している。なんとなく退屈を感じて隣のクレーンゲーム機で同じタイプのぬいぐるみの小さいバージョンがあったのでやってみる。
「えっと、前、この辺りかな?次に右、よし」
アームはしっかりとぬいぐるみを掴む、少しずつ上昇、足が宙に浮いたその時、アームから外れる。
「あっ!」
落ちたかと思ったけど、犬耳の淵に引っかかり、取れた。
「おー、私のところに来てくれてありがとう」
取れたぬいぐるみを出口からだし、隣を見る。まだ君は何かを計算している。
「アームの速度を秒速2センチだとすると、そこまでたどり着くまでに3秒強、よし、ここだ」
夢人君は計算通りに?ぬいぐるみのタグに引っ掛けて取った。
「はい、どうぞ、取れましたよ」
「ありがと」
「いえいえ、ってそれどうしたんですか?」
夢人君の人差し指はお腹に抱えたこれを指していた。
「あー、夢人君が遅すぎるから暇で隣で取った、私には夢人君が取ってくれたこの子がいるからこっちのちっちゃい方あげるね」
「え、先輩が欲しくて取ったんじゃ、いやありがとうございます、貰っておきます」
たまに見せるこういう素直な表情が不意打ちすぎてずるい。
目が合い急に顔が赤くなるのを感じた、騒々しいはずのゲームセンターで私と君以外時が止まったように感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます