第3話 先輩、服が透けてます
「ぉ…兄……お
ガバッ
「ふあぁ〜、おはよう」
「ご飯!!早く来てよね!」
ピシャン!!と勢いよく襖を閉めて部屋を出てったのが僕の妹。今頃、「なんで私が毎日お兄を起こしに行かなきゃなんないの」などと文句を言いながら階段を降りている。起きるか…。
「おはよ〜」
「ほら、お兄も早くご飯食べちゃって」
「せかせかするなよ。朝ごはんくらいゆっくり食べさせてくれ」
「だってお兄が食べてくれないと食器洗えないし、部活に遅れちゃうよ!」
「なら今日は僕が洗い物やっとくから
「そう?じゃ、よろしくね」
食い気味に言いながらもう玄関へ行っていた。
「いってきまーす!」
「車とかに気をつけなよ〜」
「もう!私を子供扱いしないでよね」
居間の開いている窓から外にいる夢葉の声が聞こえる。いやいや、まだまだガキだろ、と心の中で突っ込んだ。
ふぅ。あいつのいなくなった居間はとても静かだ。目玉焼きの黄身に箸を入れそこに醤油を垂らしながらニュースの天気予報を見る。今日は晴天らしい。気温はさほど上がらないが太陽は出てて過ごしやすいとのことだ。
「それではリュウヤさん、お願いします」
「今日、3月18日という日が皆様にとってより良い1日となりますように!せーの…」
番組が終わり、丁度食事も終わり食器を片付けていた。約束の時間まではまだ余裕があるし、とりあえず、課題を終わらせとくか。
課題も終わり、昼食を食べ終えでかける準備を始める。昨日もらった地図にはこう書いてあった。
「夢人君へ!君には助手として手伝ってもらうことがある。時間は13時、下に書いてある場所に集合!遅れたら先輩おこだからね!あ、あと動きやすい格好で来てね」
おこって、死語じゃないのか。そんなことを思いつつ用意をする。ジーンズにTシャツとパーカーというシンプルかつそこそこ動きやすい格好に着替えた。
ガチャッ
ドアを開けて外にでる。すると東からの陽射しに春の陽気を感じた。自転車にまたがりもう一度地図を見直す。それをカゴの中に放り込み目的地へとペダルを漕ぎ始める。
本当にここ?だよな。地図に書いてある場所に到着し、そこにある看板を見る。
『大自然の森』
いやー……「もっと
つい突っ込んでしまった。それは仕方ないことだ、そのまんま過ぎて本能的に口が動いたんだから。
にしてもここであってるんだろうか。スマホを開いて時間を見る12時45分、あと15分もあるな…。
「ふぁーあ」
「おや?昨日はよく眠れてないのかな?」
ビクッ
肩にポンと置かれた両手に驚いてしまった。
「いえ、そういうわけじゃないんですけど、ここに降る東日が気持ちよくて」
「なるほどね。それは確かに」
十六夜先輩はうんうんと頷いた。その顔は嬉しそうで思わずこちらの顔も緩んでしまう。
「じゃ、いこっか」
「あぁ、はい」
チャリを入り口の駐輪場に止め、歩く十六夜先輩の背中を追った。
「んーー!!やっぱりここは気持ち良いなぁ!」
手を組んで天高く伸びをしている。
「えーと、ここに何しに来たんですか?まぁどうせなんかの番組に感化されたんでしょうけど」「察しがいいね」「まぁ3回目ですから」「それでね、自然溢れる森の中、友達以上恋人未満の2人が仲良くなっていくっていうシナリオだよ」「なんですかそれ、僕に演技力を求めてるんですか?できる限りのことしかしませんって言いましたよね?」
「うん、だからできる限りお願い」
「っ……はい」
僕の皮肉を予想外にも十六夜先輩は絶対の信頼を置く人物に頼むように
「それに、夢人君に演技力なんて期待してないよ」
「あーそーですか」
それはそれで釈然としないな。十六夜先輩が何か悩んでいる風な顔をしている、あ、何かを決心したみたいだ…。
バシャン
「先輩!?何やってるんですか!」
真っ白で真っさらな膝下くらいまであるワンピースを両手でたくしあげて、川に飛び込んだ。
「意外と浅いから全然大丈夫だよ」
「いやいや、そういうことじゃなくて…」
突拍子もない返答に呆れつつ呟く。そして、不覚にもパチャパチャと水と戯れている姿に思わず見惚れてしまった。
「こういうシーンがあったんですか?」
「いや?ないよ」
即答、
「だって、やってみたいシーンでもなければ、3月の半ば、まだまだ気温は上がらず8度。この寒い時期に川にはいるなんてバ…ッッ、なんでもないです」
危うく年上に言っちゃ行けないワードランキングベスト10にはいる言葉を言ってしまいそうだった。
「夢人君もこっちきなよー」「嫌ですよ。寒いですし」「そっか、なら流石に私も寒くなってきたからでようかな」「そうした方がいいですよ」「ねぇ、ちょっと手、貸して」「えっ!まぁはい」
川から出るために手を貸すぐらい誰でも普通…か。でもここ別に深いわけじゃないのに、と思いつつも手を差し出した。
「ありがとう」
ギュッと強く握られているのにその手は柔らかく、水あそびをしたからか冷たかった。視線をあげると十六夜先輩は嬉しそうにニヤっとしていた。
グイッ
軸足が浮き、身体が持ってかれる。ああ、もう!
バッシャーン!
勢いよく落ちた僕の身体は大きな音を立てて着水した。
「ちょっと、せんぱ…ッ!」
「すご〜い!夢人君が起こした水しぶきで小さい虹がかかったよ」
十六夜先輩は僕の言葉に食い気味で言う。虹を見て無邪気に笑う姿を見たら怒る気も失せた。
「綺麗ですね」
虹が消えて、十六夜先輩を見つめる。濡れた髪、満面の笑み。けどそのどちらでもなく僕は更に視線を落としていた。ハッとして咄嗟に上を向いた。
「先輩、その…」
「なに?」
「服が濡れて、透けてます」
見てはいけないものを見た様な気になって恥ずかしさから、しどろもどろに伝えた。
「キャッ!」
十六夜先輩もすぐさま後ろを向く。
「こ、ここ、こんな時のために着替え持ってきてるの」
十六夜先輩もあまりの恥ずかしさにか、やはりしどろもどろに言っている。プルプルと震える姿を見ていられなくなり僕はパーカーを脱いで十六夜先輩の背中にかけた。
「先、あがりますから!」
「ありがとう」
そう言うと、十六夜先輩は僕のTシャツを指で掴み一緒にあがろうとした。
「こっち、見ないでよ」
「もちろんです」
川から上がると荷物の置いてあったベンチに足早に十六夜先輩が向かった。
「夢人君!着替えるからこっち見ないで。あと誰か来たらすぐに教えて」
「わかりました」
とは言ったものの、真後ろで女子(綺麗な)が着替えてるのを想像するだけで理性が飛びそうだ。
「落ち着け、落ち着け、落ち着け、落ち着け、落ち着…ッ」
ポンと後ろから肩を叩かれた。
「終わったよ」
十六夜先輩はさっきの白いワンピース姿から、デニムスカートに黒タイツ、上は白いセーターという姿に変わっていた。清楚なのも似合うけど、こういうのも…
「ボーッとしてどうしたの?あ!もしかして寒すぎて眠くなって来たの!?」
「違いますよ。ここは雪山じゃないんですから」
「そう、ならいいけど。次は夢人君の番ね」
「僕は着替え持ってきてないんですが」
「だと思って、父親の勝手に拝借して来ました」
そう言って差し出された洋服を受け取った。
「用意がいいですね」
「うん。じゃ、あっち向いてるから終わったら声かけてね」
サササーッと十六夜先輩は行ってしまった。着替えるか。にしてもこの服は…。
「先輩。終わりましたよ」
「おおー、似合ってるじゃん。」
「高1の僕にこのコートは大人っぽすぎますよ、本当に似合ってます?」
「うんうん、かわいい」
かわいいってコートや男子高校生に対する褒め言葉じゃないよな。やっぱ似合ってないのか。
「服はこの際どうだっていいです。日もそろそろ暮れはじめてますしそろそろ帰りましょう」
「そんなに怒んないでよー。それしかなかったの、ごめんね」
上目遣いで十六夜先輩が言う。それは反則です。
「まぁ、いいですよ」
押しに負けて許してしまった。
「よし、じゃ帰ろっか」
出口まで歩く最中、先輩は鼻歌を歌っていた。
「夢人君、今日は来てくれてありがとね」
「本当ですよ、来週は学期末テストもあるっていうのに」
「そうそう、テストがあるのに、って……えっ!」
「えっ!…って、まさか!」
十六夜先輩は深く考え込んでから、何かに気づいた様に頷いた。
「そうそう、テストだった!それでね、またお願い聞いてもらえる?」
空を飛ぶカラスが鳴いている。夕焼けの奥に顔を出す月がそろそろ見えそうな時間帯。十六夜先輩は切実そうな顔で頼んで来た。
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