第4話 そうだ!勉強教えてよ
私は今、ある男の子の家の前にいます。なんでこんなことになってしまったんでしょう。
昨日の帰り道、私に歩調を合わせるため自転車を押しながら歩いてる君が言った。
「来週はテストなのに、こんなこと手伝ってる僕に感謝してくださいよね」
小生意気な言い方だったけどそれに乗ってあげる。
「そうそう、来週テストなのに…って、え?」
来週テストだっけ、全く思い出せない。コツンと頭を叩いてみるけど記憶が出てくる気配はない。
「え?ってまさかテストのこと忘れてたんですか?」
大変驚愕した様子だった。そう、忘れていた。だって学校の話なんてほとんど聞いていないし…そう思いつつも、流石にそっくりそのまま言うのも気が引けて咄嗟に言い訳をする。
「忘れてたわけじゃなくて…そう!私ね、勉強苦手なの。それで、どうしようかな〜って思って、そのえ?だよ。忘れるわけないでしょそんなこと、そ、そうだ!勉強教えてよ」
なんてことを言ったんだろう。咄嗟のことでつい変なことを言ってしまった。学年が違うのにどうする気なの?と自分を叱りたい。
「まぁそういうことなら、多少なら進級準備もしてますし教えられる範囲は教えますよ」
これまた驚いた表情で、クスッと笑いながら答えてくれた。
「ありがと〜…」
我ながらとても情けないと思う。年下に勉強を教わるなんて先輩として立つ瀬がない。
「明日、どこで勉強します?先輩の家とか、空いてます?」
「私の家はダメかな、父がいるから男の子連れて来たらなんか言われるかも」
「そうですか、可愛い娘ですもんね」
そう言われて私の顔が少し赤くなる。それを見て君の顔もボッと赤くなる。
「あー、いや!今のは先輩が可愛いとかじゃなくて、ってそうでもなくて先輩は可愛いと思うんですけど、えと、あの父と娘的な、そういうやつです!」
必死に弁明する君を見てクスッと笑ってしまう。
「今の君の方がよっぽどかわいいよ」
「からかわないでくださいよ」
鼻の先を尖らせて、むくれている。それを見てまたかわいいと思ったがなんとか言うのは堪えた。
「もう、じゃあ僕の家に来てください。べつに僕の家は大丈夫なんで」
「夢人君の家?夢人君がいいならいいけど」
「それじゃ決定で、あとでうちの家の地図のリンク送りたいのでLINE教えてもらってもいいですか?」
「そういえば、LINEも交換してなかったね。はい」
「ありがとうございます、じゃあ家に帰ったら送っておきますね」
どことなく嬉しそうな顔をした気がした。
駅に着いたので君と別れ家に帰った。
そして、地図を頼りに到着してしまった訳である。
表札には朝地と書いてある。そういえば名前だけ聞いて、苗字は知らなかったなぁ。どうしよ、チャイム押そうかな。
家の前をうろうろする。そうしてたらドアが開いた。
「行ってきまーす!あ、夕食は冷蔵庫の中に入ってるからチンして食べてね」
「おお、わかってるよ。行ってらっしゃい」
タタタッと中学生くらいの可愛らしい女の子がでてきた。目が合ってしまい、こちらに駆け寄ってくる。
「どうしたんですか?」
困っている様子に気付いたのか、質問される。
「夢人君のお家ってここですか?」
「朝地夢人なら、私の兄ですが何かご用ですか?」
「今日ここで勉強する予定なんですけど」
礼儀正しくも愛らしいこの子ににやにやしてしまいながら答える。
「ちょっと呼んできますね。……お兄、すっごい美人さんが来たんだけど、知り合い!?」
「ああ、先輩、もうきてたのか」
玄関の奥から2人の声が聞こえる。妹さんに、手招きされて門扉を開けて玄関に向かう。
「それじゃ、あとはお兄!頑張ってね!」
「ん?ああ勉強会だからな、頑張るよ」
「とぼけなくていいよ、ただ勉強するなら喫茶店でも図書館でもなんでもいいじゃん、わざわざ家に呼んだんだからそういうことでしょ。じゃ、今度こそ行ってきまーす」
反論する前にもう駐輪場から自転車を出して、出発しようとしていた。喫茶店とか図書館か、全く選択肢になかった。確かに、と思った。
顔を上げてハッとした。不意に目が合ってお互い沈黙してしまった。妹さんの言ったことを意識してしまったのだ。
「そういうことなの?」
「ただの勉強会ですよ。さ、上がってください」
からかわれたと思ったのか、
「へぇ〜、ここが夢人君の部屋かー」「特に何にもありませんよ、飲み物はお茶とオレンジジュースどっちがいいですか?」「トロピカルマンゴー!」「そんなのないです」「じゃあオレンジ」「じゃあってなんですかじゃあって…」
パタパタと飲み物を取りに階段を降りていく。
ふと1つの写真を見つける。男の子と女の子の写ってる写真、2人とも顔がとても似ていて服を交換すればわからないほどだ。
「それ、どっちが僕か、わかります?」
氷とオレンジジュースの入ったコップをお盆にのっけて、持ってきた君が言う。
「え、右の男の子じゃないの?」
「違います。そっちは妹で、左のフリフリの服を着てるのが僕です」
「そうなの!?」
全然わからなかった、それくらい似ていた。
「父さんと母さんを驚かせたくて2人で服を交換したんですよ、それでもすぐにばれちゃいましたけど」
「昔の夢人君かっわいいー」
「もう勉強始めますよ」
「そうだね」
小さなテーブルの前に座って鞄から勉強道具を取り出した。
「さあ、勉強しよっか」
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