第6話 君の慎重ぶりは私の人生随一だよ
「十六夜 月さん!頑張りましたね」
担任の先生がそう言って答案を返してくれた。そこには96と書かれている。
「よしっ!」と心の中で小さなガッツポーズをする。他の答案の結果も上々で、自分でも驚いた。いつもは大して良くないのに、それもこれも
「はい!ではね、テスト返却も終わり明日からは春休みです。今から配る春休みのしおりに従って
「起立、礼」
学級委員の男の子がそう言って、みんな身支度を始め帰り始める。みんなと同じように私も荷物を持って教室を出る。でも向かうのは昇降口ではなく彼がいるであろうあの場所だ。
ガララッ
教室のドアを開ける。中には誰もいなく1つの窓が開いていて、そこからそよそよと春の陽気が流れ込んでいた。
「おかしいな。1年生は2年生の私より1時間早く終わってるはずなのに…」
そうポソリと呟く。その瞬間、
「せーんぱい!こっちですよー」
窓の外から聞こえてくる。驚いてすぐに窓の近くに駆け寄る。窓の外を見ても誰もいない。すると、いきなり肩を叩かれる。
ポンッ
「先輩、こっちです」
「ひゃあっ!!」
腰が抜けるほどびっくりした。文字通りヘタッと窓を背に腰をついてしまった。
「あははっ!成功です、って大丈夫ですか」
そう言いながら君は手を差し出してくる。その手を取って起き上がる。
「ありがとう、もう〜狐に化かされた気分だったよ」
「狐に化かされるって今日び、聞きませんね」
成功したのが嬉しいのかニコニコしている。
「それはどうでもいいの、それよりどうやったの?」
「ああ、タネはこれです」
そう言って窓の外のへりに手を伸ばしてスマホを取り出した。
「これで声を録っておいて流したってわけです」
満面の笑みでタネ明かししている、その姿は喜々としていて無邪気な子供の様だった。
「そんなに嬉しいの?とっても良い笑顔だけど」
「え?そんな顔してました?ちょっとは嬉しいかもですけど」
いやいや、ちょっとじゃないでしょ!その笑顔は、と思ったが突っ込むまでは至らなかった。
「今日はこんなことされにきたんじゃないよ」
私は窓のへりに座って、君はいつもそこで小説を読んでいるであろう机に座っている。
「それで、今日は何の用が?」
「用がなくちゃ私たち会えない様な仲なの?」
「え?」と顔を赤くして驚いている。
「冗談だよ、さっきのお返し」
「え?」とこれまた違った意味で顔を赤くしている。
「驚いちゃったじゃないですか、でくだらないことは置いといて本題はなんです?」
からかうのは好きだけどからかわれるのは苦手といったところか。恥ずかしいのか話題を変えてきた。
「そうそう、さて今日は何の日でしょう?」
「3月24日です」
「そうじゃなくて、終業式!つまり?」
「つまり、明日から春休みってことですね」
「そうそう!というわけで、はい!」
そう言って私は窓からヒョイっと降り机の上に一冊のノートを出した。
「春休み計画表?」
表紙に書いてある文字を君が読む。
「春休み、つまり学校は休み、つまりやりたいことをやるにはもってこいってことよね」
「そうきましたか、わかりました。目星はもうついてるんですか?」
君の呆れ顔も今はもはや恒例だ。渋々ながらも君は絶対了承してくれる。
「うん、大体ね」
「じゃあここに書き出していくんで言ってください」
「海とか良いんじゃない?」「先輩、今は春ですよ」「そっか、じゃあ山登りとか、どう?」「今年は例年より寒くて登山は危険です」「へー、寒いのか今年、じゃあスキーで」「そこまでは寒くないです!」「えー!……」
そんな不毛な会話を続けること30分、やっと決まった。
「じゃあゲーセンと遊園地ってことで良いですね?」
「それでいこー。夢人君が慎重すぎるせいでこんなに時間かかっちゃったよ」
「それは先輩がてきとうすぎるからですよ」
「君の慎重ぶりは私の人生随一だよ」
「そっくりそのままお返しします」
そんな言い合いをしつつも君と私の顔は笑っていた。
「じゃあ来週ね、最初はゲームセンターから行こう」
「わかりました、前みたいに変なことしないでくださいよ」
それは、川に引きずり込んだ時のことを言っているのだろうか。あれはちょっとやりすぎたかな?でもまぁ、大丈夫かな、そう自己完結した。
「はいはい、じゃあそろそろ帰ろっか」
「またてきとうな返事して…」
「もしかして、楽しみにしてるの私だけ?」
流石に怒らせちゃったかと思いそう聞くと、
「そんなことないですよ、楽しみにしときます」
呆れつつもその裏には笑顔が隠れていたので安心した。
梅も季節が終わり桜の
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