第2話+「私が探偵助手をするならこう」のおまけ
振り返ると、車椅子のタイヤ跡と、それに重なった私の足跡とが、沈んでいく夕日に飲み込まれるように遠くまで続いてるのが見える。
私はそれを見てはあとため息をつくと、前に向き直り一歩踏み出す。するとまた靴は地面に足跡を作り、ズボンは水滴を飛ばす。
「冷たっ!水がはねたわよ!注意して歩いてくれるかしら?」
私の押す車椅子に乗った態度のでかい、足を包帯でぐるぐるまきにされた中学生は、只今大変ご機嫌斜めである。
「全く。こんなびしょ濡れで病院をたずねたら、そりゃあお医者様もあんな顔するわよ。」
そう言って車椅子の少女、稀崎椎那は足に巻かれた包帯をさする。
「助かったんだからいいだろ?だって下が湖じゃなく地面だったら良くて重症だぜ?」
「浅かったらどうするつもりだったのよ。もし浅かったら私たちは今頃ス〇キヨしてるわよ!?」
スケ〇ヨしてるとかなんだその新しい日本語は。
「浅かったときのためにお前の頭を守るような体勢で飛び込んだから大丈夫だよ。
というか、助けたのに礼の一つもないのか?」
「助けたって……そもそもあなたが表口と裏口を間違わければ、こんなことにはならなかったんじゃない!」
「しょうがないだろ!つくりが一緒だったんだから!それに相手がなんとしてでも出させまいとしてたら出口だと思うだろ!」
「あなたがその演技に気づけばよかったのよ!」
「あんなの気づけるわけないだろ!切羽詰まってたんだし!そもそも、お前があんなとこに行こうと思わなけりゃ、こんなことにはならなかったろうが!」
「思わなけりゃって、そんな……クシュン!!
……うー、もうこの話は終わりにしましょう。早く帰らないと風邪を引いてしまうわ。」
稀崎は鼻を啜る。
まあ確かに、帰った方がよさそうだな。風もだいぶ冷たくなってきたし。
「はあ、そうだな。こんな寒い中で喧嘩なんてしてても喉を悪くするだけだからな。」
「上がったぜー。風呂ありがとよ。」
私がタオルで頭を拭きながら応接室に入ると、稀崎は優雅に紅茶を飲んでいた。
「ふふ、私の残り湯を飲んだりしてないでしょうね。」
「そんなことしないよ気持ち悪い。消化器官が腐るだろ。」
「腐っ……ゴフッ!ゴッゴッ、ゲフッ!」
稀崎は紅茶を吹き出し、激しくむせる。
動揺しすぎだろ。こいつどんだけ自分に自信があるんだよ。
そして稀崎は口の端から紅茶を垂らしたまま元の姿勢に戻る。
「ゴホッゴホッ、ふう……ちょっとした冗談のつもりだったのだけど……必要以上に傷つけられたわね……まあ、いいわ。とりあえず向かいの席に座ってちょうだい。」
「いや、その冗談は全然ちょっとしてないぜ?」
「いいから早く座ってくれるかしら?」
しっかしこいつほんと転換早いな。美子さんのキャラが薄れるじゃないか。
私が言われた通り向かいの席に座ると、稀崎は口を拭い、私の前に一枚の紙を差し出す。
「これは?」
「これはある科学者が所持していたリストよ。いくつか破れて読めないところがあるけど……」
「リスト?何の?」
「超能力者よ。それも、薬で超能力を得た……ね。」
正直、先日幽霊と戦い、多重人格を目の当たりにしたので、超能力者の存在を疑ってはいないが、薬……?薬ってことは……
「このリストって、あいつが持っていたのか?」
「いや、違うわ。その友人よ。」
「そうか。あいつじゃなくて安心したぜ。で、それを持ってたやつはどんな見た目だったんだ?」
「それはわからないわ。あの人から「友達の様子がおかしい」って話を聞いて調査のためにあの人の友人の研究所を訪ねたら、書類が詰め込まれた机しか残ってなかったからね。」
「それでそのリストもそこから見つけたと……
でも、なんでそれを私に?」
訊ねると、稀崎はリストの一箇所を指さす。
見るとそこには、
“エイラ・ブラーデル:攻撃力上昇(大)”
と書かれていた。
「!これは……!!」
「そう。あの豪邸にいた少女よ。」
「攻撃力上昇(大)って……お前そんなやつと私を戦わせてたのか!?」
「ええ。攻撃力はどのくらいなのか調べるためにね。」
「そんなことのためだけにか!?」
私は身を乗り出す。
「このためだけじゃないわ。これは最終目的を果たすための第一歩よ。」
「はあ?最終目的って……まだやるのか?」
「ええ。最終目的は、エイラ・ブラーデルから超能力を抜くことよ!」
「抜くって……どうやって?」
驚きやら呆れやら不安やらで、私の右目のまぶたががぴくぴくし出す。
そうすると稀崎はもう一枚、資料を取り出す。
「ん!」
私は稀崎に促され資料を覗き込む。
“私は、人間に超能力を与える薬品を開発したわけだが、その薬品が成功したので、次に私はその薬品の効果を数十倍にした。結果それを飲んだ人間は普通の数十倍の効果を持った超能力を手に入れることが出来たが、一つだけ大きな穴があった。それは、この薬品を飲んだ者が勝負に敗北すると、能力が暴走することだ。この暴走はおそらく、「この人間は超能力を持つにふさわしくない」と抜けようとする超能力と、超能力を手放すまいとする人間の意思が反発して起こるものだろう。”
「おいおい、冗談じゃないぜ……つまり二回も倒さなきゃならないんだろ?あの怪物を。」
「そうよ。」
「いや、無理だろ!今回だって殺されるとこだったんだぞ!」
「いや、無理じゃないわよ。もう勝つためのプランはできてるから。」
そう言って稀崎は紅茶を一口飲む。
「付き合ってくれるわよね?」
「いや、無理。」
「じゃあ決まりね。あとで予定合わせるからよろしく。」
デジャヴである。
もうすぐ、春と共に新学期がやってくるというのに……
私の新学期は、一体どうなってしまうのだろうか。
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