私が物語を書くならこう

組長

第1話 「私が廃墟に行くならこう」の前編

 どうも、神楽葉 英(かぐらば ひでる)と申します。

 ところで、私は作家を夢見る高校一年生なんだが、完全フィクション作品より現実の出来事を元にした作品を書きたいなと思っている。

 で、まずはじめに書こうと思ったのはズバリ、「ホラー小説」!そしてホラー小説の命と言えばあの臨場感、引き込まれたら最後、主人公と同じ冷たい空気を感じ、襲いかかる人外の形相に驚愕し、捕まらぬよう、生き延びられるよう、あちらこちらを逃げ回る。

 そしてそんな読み手の心を怨霊の如く小説の世界へ引きずり込むには、やはり「リアル」、「現実」の出来事を取り入れて小説を書くべきだろう。そして私は今、町外れの小さな喫茶店の一席に座って人を待っているのだが、もう約束の時間を二時間も過ぎている。

 早く来て欲しいものだ。店員が150円のアイスコーヒー一杯でかれこれ二時間も何もせず鎮座する私を不審そうな目で見ている。こんな町外れの人気のない小さな喫茶店の店員の癖にまるで「学習目的での長時間のご利用はお控え下さい」とか張り紙がしてある大手チェーン店の店員みたいな反応をとっている。

 その店員が、私が瞳だけ動かして見つめていることに気づいてさっと目をそらしたところで、私はいよいよ恥ずかしくなってきたので今日は帰ることにした。

 席を立つ前に今日会う予定だった友人に「待ちくたびれたので帰ります。」と送ろうとスマホを立ち上げた時、入口の扉が開き、チリリン、と鈴がなった。

 店員が静かに「いらっしゃいませ」と言うのと同時に音のした方を見ると、身長約200cm超(正確には210cmらしい)の巨女が、息を切らして立っていた。巨女は僕と目が合うと、息を整えながら「ごめんねー」と近寄ってくる。この人が今日会う予定だった四つ年上の小学生からの友人、高田 美子(こうだ みこ)さんだ。

 なぜこの人を呼んだのかは、前置きでだいたい察しがついてるだろうが、この人は重度のオカルトオタクだからだ。そして今日は廃墟など多く訪れているであろう彼女に、取材をしようと思って呼んだのだ。


 が、しかし、

「まずはなぜ二時間も遅れたのか説明して下さいよ。美子さん。」

 すると美子さんは「てへっ」っといったかんじで手を頭の後ろに回して言う


「えっとねー、寝てた」


 はいふぁ〇くー、ぷりてぃふぁ〇くー

(※小生は超英語苦手です。ご了承ください。)

 しかしまるで悪びれる様子もない彼女に呆れ、怒る気もなくなったのでもう本題に入ろう。

 私は気持ちを切り替えるために今まで溜め込んでいた怒りをため息とともにはあと吐き出し、話を始める。

「今僕は小説を書こうと思ってるんです。」

「うんうん」

「それでホラー小説を書きたいんですよ。」

「うんうん」

「なのでオカルトに詳しい」

「うんうん」

「美子さんを呼んで」

「うんうん」

「取材をして」

「うんうん」

「それを」

「うんうん」

「もと」

「うんうん」

「に」

「うんうん」

「聞いてます?」

「?全然聞いてないよ?」

 やはりこの巨人、駆逐してしまおうか。それになんで最後の「聞いてます?」だけしっかり聞いてるんだ。ていうか「全然聞いてない」のまえの「?」ってなんだよ。私が悪いんですか?これ。

 私は再び怒りのこもったため息をつき、もう一度説明する。


 ……そして格闘すること数十分、やっと説明を聞いてもらえた。ざっとあの茶番を二十五回ほどと言ったところか。

 私は椅子の背もたれによりかかり、疲れをため息とともに吐き出し、美子さんの言葉に耳を傾ける。

「うーんじゃあ私がどっかのよくわかんない廃墟に行った時の話なんだけど……中を歩いてたらガシャーンってなってそこからドバぁーってきたから私がすぱぱっとやってどしゅううううってしてごしゃあああんってなってぴゅーって帰ってきた」

(※お使いの電子機器等は正常です。)

「……」


 ???


 なんだ?私はバトルアニメを目を瞑って視聴していたのかな?まあこれじゃあ「視聴」じゃなくて「聴」なんだけどねあははは(困惑)

 いや、これはバトルアニメを目を瞑って観る(?)より内容が伝わってこないぞ?

「あの……美子さん。全然わからないんですが……」

「なんだ〜私が話聞いてなくて怒ってたのに私の話は聞いてないんじゃん〜(笑)」

 うん、とりあえず糞を食らっとけ。共食いしてろ糞野郎。

 ……とか言いたかったが私ももう立派な高校生、数々の暴言をぐっと押さえ込み言葉を返す。

「いや、聞いてなかったわけじゃなくてですね……もっと詳しい情報がほしいなと……」

「あー、そういうことね!うん!そう来なくっちゃ!」

 どう来たように思えたんだ

 私には私のセリフと美子さんのセリフの間の会話が吹っ飛んだようにしたようにしか思えないんだが……

 美子さんは某人気マンガに出てくる「スタンド」とかいうやつを身につけたのか?

「そう来なくっちゃってどういうことですか?」

「え?詳しい情報が欲しいんでしょ?だから行くんだよ廃k……」

「遠慮します。」

「……」

「……」

「廃墟にいk」

「遠慮します。」

「廃墟n」

「遠慮します。」

「廃k」

「遠慮します。」

「なんでえええええええええ!?」

「行きたくありません。」

「えー!行こうよ!お化けが出たら「きゃっ!怖い☆」「大丈夫、俺が守ってやるよ(イケボ)」ってなって恋が芽生えるかもしれないよ!」

「いや、お化けの前で恋なんて芽生えさせてたら速攻でやられますよ。そもそもあなた重度のオカルトオタクなんだからお化け平気でしょ。あと私はあなたのようなフランケンシュタインと恋なんてごめんです。」

「フラッ……身長であだ名決めないでよ〜私も乙女なんだからっ☆」

 ううう!耳が腐る。

「もー!なんでよー!行こうよ廃墟ー!」

「いやですよ面倒ですし暗いとこ怖いですし」

 すると「暗いとこ怖い」という言葉に反応したのか先ほどまでテーブルに突っ伏して手足をじたばたさせていた美子さんが顔をあげる。

「え〜?ヒデヒデ暗いとこ怖いの〜?」

 ヒデヒデとか女子かよ(女子だが)

 それに美子さんは何か勘違いしているようだが、私が暗がりを怖がる理由は、小学生の時、丑の刻まいりをしている人を見たいと思い、深夜に山奥の神社に行こうとして、石の階段を登っている際に足を滑らせ下まで転げ落ち、利き手の骨を折って数ヶ月大好きな小説を書けなくなったからであって、目の前にいるデヘデヘした顔で「ウッへへ、ヒデヒデの怖がる顔見たい」とか思っているであろう腐女子の「暗いところが怖い」という概念とはまたちがう。

 しかしこの人との会話にはいちいち苦労させられる。今すぐにでも帰りたいが、私の友人にオカルトオタクはこの人しかいない……それに擬音だらけの小説を書くわけにもいかない……

 私は肩を激しく揺さぶってくる美子さんの手を払い除けてもう一度席に着くと、一番高い紅茶とケーキを注文する。

「え?ケーキ食べるの!?私も食べる〜」

 そういって美子さんもさっきの態度とは一転して、るんるんし出し席につくと、私と同じ物をたのんだ。


 食べ終わる頃には、すっかり夜になってしまっていた。

「美味しかったね〜ところで廃墟に行く気になってくれた?」

「ああ、その話ですがね……」

 私はテーブルに両肘を立てて寄りかかり、両手を口元に持ってきてどこぞやの司令官のようなポーズをとると、にやりと笑った。

「僕の分のお代も出してくれたら考えますよ。」

 

 瞬間、美子さんの顔は死んだ。

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