第2話 「私が探偵助手をするならこう」の中編
「この林を抜ければ目的地が見えるわ。」
私は砂利だらけの林道を、やたら態度がでかい中坊をのせた車椅子を押しながら進む。
「にしても、いつもに比べて文句がないわね。こんな道が悪いところを車椅子押して進んでるのに。」
稀崎の真っ白なキャペリンが風に揺れ、稀崎はそれを右手でおさえる。
「そりゃあ文句は山ほどあるよ。だけどこんなとこで機嫌そこねてナビを中断されたりしたらたまったもんじゃないからな。」
稀崎は半分振り向き横目で私を見る。
「へえ。わかってるじゃない。まあでも私とこの砂利と植物しかないとこで私と心中したければ文句言っても構わないわよ。」
「はっ、それだけは御免だよ。君とこんなとこで心中するくらいならら出口を探してのたれ死んだほうが百倍マシだね。」
「は〜?なにそれ、うーわ、機嫌そこねたわー、ナビすんのやーめた。」
稀崎はぷいと前に向きなおる。
「いや、今の君にそんなことできないね。君は死ぬのは怖くないのかもしれんが、目をつけた事件を解決しないで死ぬのは不本意だろう?」
「あら図星。まるで名探偵ね」
「本物の名探偵様にそう言っていただけて光栄だね。」
「でも、それがわかってるなら私がナビをやめないようにするために文句を言わないっていうセリフとは辻褄が合わなくなっちゃうわよ。」
車椅子が小石に乗り上げがたんと揺れる。
「「やらなきゃならないときはやる。」それが私。だから基本他人のために何かをしてあげるなんてことは滅多にないんだ。だから照れ隠しってとこだな。」
「じゃあ私が手助けして貰ってるのは幼なじみの特権ってとこかしら。あ、そこ左ね」
私は道を左にカーブする。
「いや、どっちかというと小説のネタをもらうからそのお礼……いや、お代ってとこだな。」
「あら、小説を二つ同時に書くのは面倒なんじゃなかったのかしら?」
「メモでもしておくよ。ここまで来てとやかく言うのもなんだしな。」
無理矢理連れて来られたんだが。
そんな会話をしてるうちに私たちは林を抜ける。
「あー、あれ、あれあの建物よ。」
「え?あれ!?」
「そーそー、あれ以外にどれがあるってのよ。」
私は正直、目を疑った。そこにあったのは、まるでアニメに登場する様な、崖っぷちに建った壁に囲まれた巨大な豪邸だったからだ。しかも門から中を覗くと、まるで迷路のような庭園まである。
「凄いな、これは。迷子になりそうだぜ。」
「ほらほら。ぼさっとしてる暇があったら押してくれるかしら?」
「待て待て。勝手に覗いた私が言うのもなんだが、これって不法侵入だろ。」
「何を言ってるの?不法侵入だなんて心外だわ。
これは潜入捜査よ!」
「……」
「どやぁぁ」
「なぜ効果音(?)を口で言ったんだ。」
「反応が薄かったからよ。ほら、そんなのどうでもいいからさっさと押した押した!」
「……はいはい、わかりましたよー。」
正直不法侵入してまでネタ集めなくてもいいんだけどなあ……
とりあえずこいつと揉めるとまた面倒なことになりそうなので、仕方なく車椅子を押す。
中にはいってみると、生垣だらけの庭園はやはり迷路のようで、もし稀崎のナビがなかったらおそらくというか絶対迷っていたと思った。(そもそもここの存在を知ることもなかっただろうが。)
そして、稀崎の支持に従って進むと、意外にもあっさり豪邸の入口についた。
「意外とあっさりついたな前にも入ったことあるのか?」
「ええ。一回だけね。そのときは中に入ったら銅像が置いてあったのだけど、拳の形にくぼんでる部分があるのを見て撤退したわ。」
いや、これからそんなことができる化物と私を戦わせようとしてるのかよ。
「しっかし凄いな。一回で道を覚えちまったってわけか。」
「当たり前でしょ。天才に不可能はないわ。」
お前が天才なのは認めるが自分で言っちゃうあたりどうなのかね。
「不可能がないなら太陽の膨張を止めてくれよ。」
「それは無理。」
悲報、天才は万能説終了のお知らせ
入口を開けると、なるほどたしかに、拳の形のくぼみがある銅像が……なかった。
何故か?
稀崎が嘘をついたから?
否。
その銅像だったであろう物は、粉々に砕かれ、床に散乱する破片となっていたからだ。
しかも、かろうじて残っていた土台には、爪で引っ掻いたような跡がくっきり残っている。
大理石なのに。
その光景を見て稀崎は手で口を覆う。
「ジーザス……」
「いや、けっこう余裕そうだな。」
その言葉に稀崎は自慢げにふふんと笑う。
「ふふふ。まあ、わたしゃわ経験がほぅ…ほうふだからにぇ」
思ったより同様していたようだ。
私は周囲を確認しながらゆっくり豪邸に入る
「さて……どこから探索すればいいものか。」
「そうね……とりあえずこの部屋を歩き回ってくれる?」
私が言われた通りに部屋をくまなく歩き回ったところ、銅像(土台だけだが)の真横に来たところで床の一部がへこみ、ゴゴゴゴと音を立てて銅像の土台が横にずれる。
見るとその下には穴があり、穴の底には、横に進めそうな道らしき穴があいていた。
「……!これは……よし、入ってみるか。」
「待った!」
「ん?どうしたんだ?」
「罠よ。」
「罠?何故罠だと分かるんだ?」
「だいぶ前にね、12人の警察や検察がここに家宅捜索に来た。そしてうち2人が行方不明になった。ちなみにその2人はここを調査していた……だから……んしょっと。」
稀崎は入口の両隣にあった片方の甲冑の右腕を取る。
そしてそれを穴に落とした。
瞬間、穴の底の横に開いていた道は閉じ、銅像ももとの位置に戻った。
「なるほど……迂闊に降りたら閉じ込められるってわけか……ということはさっき言ってた2人もこの罠で……おー怖
というかお前急に冷静になったな。」
稀崎は目を瞑りふっと笑う。
「ええ、盛大に漏らしたら落ち着いたわ。」
「そういう笑えない冗談はやめろ。」
「んじゃ、ギャグもキまったしとりあえず隠れるわよ。」
「隠れるって……なんで」
「罠に獲物がかかったら仕掛けた人間が捕獲しに来るに決まってるじゃない。」
私は口に拳を当てる。
「ふむ……たしかに一理あるな。だが隠れるったってどこに?」
すると稀崎は何やらポケットから布を取り出す。そして稀崎がその布をばっと広げると、布と重なった部分の稀崎の体が消える。
「天狗の隠れ布…といったところかしら?」
その光景に私は少し興奮する。
「おおお……凄いな。あいつの発明品か?」
後ほど機会があれば説明させてもらうが、私と稀崎には、発明家をやっている友人がいる。
「そうよ。さ、入って入って。」
私たちは布を被り部屋の隅に移動すると、息を潜め布に空いた穴から部屋を見回す。
しばらくすると、部屋の扉が開いて、黒いドレスを身にまとい、月の様な形のサイドテールの少女が入ってきた。その少女の手を見ると、スイッチが握られている。
そして少女は銅像の土台の前に行くと、手に持っていたスイッチを押す。すると先ほど私が足元のスイッチを踏んだ時のように銅像の土台が横にずれる。
「また……かかってない。最近……かかりが悪い。」
穴を覗いた少女は、そう言って中に入り甲冑の腕を拾って這い上がって来ると、腕を元に戻し再び扉の方へ行く。
私は少女が出ていったら布の下から出ようと腰を浮かせる。
すると、少女はぴたっと静止した。
同時に私も少し動揺して同様にフリーズする。
そして、しばらくの沈黙の後、少女が口を開く。
「健康……」
え?
「健康な人間の……呼吸の音が聞こえる……」
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