さらさらと

由海(ゆうみ)

My Sweet Valentine

『もうすぐバレンタインデーだと言うのに、砂嵐に阻まれて僕らは身動きも取れない。

 きみに宛てた手紙の束は届いているんだろうか? 補給もとどこおっていて、便箋代わりのノートも残り少ない。手元にあるものを使い切ったら、今、この手紙を書くために机代わりに使っているダンボール箱を潰して書くしかないな。

 きみに何か素敵な贈り物がしたいんだけど、僕の周りにあるのは、くだらない冗談を連発するどうしようもない仲間の笑い声と砂ぼこりだけ。

 だから、これを送るよ』



 日付よりも、ひと月以上遅れて私の手元に届けられた、あの人からの手紙。遠い異国の地での戦争は既に終結した、とテレビのニュースが伝える中、未だに戻らないあの人からの、久しぶりの便り。

 封を切った途端、さらさらと砂のようなものがこぼれ落ちた。



『僕らを砂嵐から守ってくれるテントのひもを、少しばかり失敬したんだ。僕がこのテントの中で、いつもきみを夢見ていることを、どうか忘れないで』



 封筒の中には、五センチ程の麻の紐。

 そして、さらさらと、零れ落ちるほどの愛。



『明日、いよいよ国境を越える』



 そんな所に居ながらも、私を想い続けてくれる人を思って、涙があふれ出た。









 ああ、そんな事もあったねと、今、目の前でおだやかに笑うあなたが、とても愛しい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

さらさらと 由海(ゆうみ) @ahirun

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ