読者様から頂いた応援コメントを読ませて頂きながら、「すでに完結した作品との関連性に気づいて下さったんだ!」と嬉しくなる時があります。
「ディーネ」という名前について、『懐かしい名前です。ロスタルの妹ですよね』との嬉しいコメントを頂きました。
前作「最果ての、その先に」に登場したディーネは、妖魔と人間の女性の間に生まれた『罪戯れ』でした。月色の髪を持つディーネは、愛する人を救うために妖魔「ヤムリカ」に身体を譲り渡し、人の子としての生を終えました。ヤムリカは腰から下は虹色の鱗に覆われた蛇の姿ですが、真珠色の翼を持つ美しい妖魔です。
本作「静寂(しじま)の闇に」に登場するディーネは、獰猛な毒竜に似た姿ですが、美しい白い翼を持つ愛らしい妖獣です。
同じ名前を持つ一人と一匹ですが、つながりはありません。ただし、翼を持つ白い竜の描写は、「有翼の蛇」ヤムリカを思い起こさせるよう意図的に書きました。妖魔や妖獣は人間に危害を及ぼす恐ろしい存在ですが、本作の白い竜ディーネやヤムリカのように、人間を庇護する心優しい「魔の系譜」もいるのだということを、知って頂きたくて。
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「ディーネ」という名前は、中世の錬金術師によって「ウンディーネ」の名を与えられた水の精霊をイメージして名付けました。
人間との悲恋物語が多く伝えられる水の精霊は、自然の具象化です。姿形は人間に似ていますが、魂を持たない存在です。不滅の魂を得るためには、人間の男に心から愛され、その伴侶となる必要がありました。ですが、男が精霊を裏切れば、精霊は男を自らの手で殺さなければなりません。
禁忌の恋に身を落とし、涙ながらに愛する夫を噛み殺した水の精霊の話が伝えられています。一方で、「心優しい女性は、死ぬと水の精霊に生まれ変わる」という伝承もあります。
「罪戯れ」の娘ディーネは、自らを犠牲にすることで、愛する男性を救おうとする強さと優しさを合わせ持っていました。
本作の白い竜ディーネは、妖獣狩人セサルの使い魔ではありますが、セサルとフェイドラが大好き、食べることも大好きな、お茶目で心優しい妖獣です。
この一人と一匹に共通するのは、愛する人のためなら、危険を省みずに闘う強さを秘めている、ということです。『大陸』世界では、「ディーネ」という名は「気丈ながらも、心優しい女性に育って欲しい」との願いを込めて付けられる名前なのです。