主人公の僕と黒猫のムギさんが、機関車に引かれた喫茶店に乗り、日帰りでさまざまな場所を旅していく物語。
喫茶店は本棚があるブック・カフェで、本をめくる音が静かに響いてくるような雰囲気に包まれています。また、コーヒーの匂いや美味しそうな料理の香りも漂ってきそうで、素敵な空間の中で物語が進んでいきます。
「まったく君って奴は」が口癖のムギさんと純朴な僕の会話が面白く、ゆったりと力を抜いて楽しめました。
それぞれの話は一話完結で、笑える話や不思議な話、深い話や泣ける話などさまざま。個性的なキャラクターもたくさん登場します。時には、世界の見方がちょっぴり変わることも?
一日の終わりにそっとページをめくって浸りたい物語。
ぜひ、ムギさんと僕と一緒に、物語の旅を楽しんでみてください!
家族のために強い男になりたいと願う少年が、人間の言葉を話すツヤツヤ毛並みの黒猫ムギさんと一緒に、コーヒーを飲みながらゆったりと夜を旅するすこしふしぎでとっても可愛い物語です。
ひとつひとつのエピソードは短くてサクッと読めるのに、得られる読後感はそのお手軽さに大きく反比例しているように感じました。
読むほどに物語のあたたかな空気が流れ込んできて、心の中を換気してもらっているような心地よさがどんどん強くなっていくのです。
私は「ムギさんとチャーハン」のエピソードで、心の空気が綺麗なものに入れ替わったのを感じました。そこからはもうひたすら、心の風通しが良くなる一方です。
少年とムギさんのやり取りは、ずっと眺めていたくなるほど面白くて愛おしかったです。彼らの周りに集まる人々も、みんなとってもユニークで可愛らしいのです。
たくさんの出逢いと交流を繰り返し、少しずつ豊かになっていく少年の心を見守っていると、自分の心まで柔らかくなっていくような気がしました。
これはぜひ我が子にも読ませたいなぁ。夜寝る前に1話ずつ、大事に読んで欲しいなぁ。ムギさんたちの夢を見て眠って欲しいなぁ。そうしたらきっと、浪漫と思いやりが溢れる優しい子に育つだろうなぁ。
……なぁんて、子供どころか伴侶すらいないくせに、つい真剣に考えてしまいました。
それくらい、夢が膨らむお話なのです!
ふしぎですてきな夜の旅、皆様もご一緒してみませんか?
大人の男に憧れる「僕」は、物知りなムギさんに相談した。
母や妹を守れるくらい強くなるため旅に出てみたい、と。
ムギさんは、銀河鉄道の喫茶室に夜毎、乗車することを提案した。
ちなみに、ムギさんは、夜になると人の言葉をしゃべる黒猫だ。
夜空を翔けるふしぎな列車のブック・カフェを舞台に、
やさしい言葉で織り成される童話風味のショートショート集。
読書の供、旅の供として、コーヒーやまかないが折々に登場し、
「僕」とムギさんは風変わりで素敵なヒトビトと出会っていく。
小学生のころに好きだった童話や児童文学を思い出した。
日常のワンシーンを切り取って、すこしのふしぎで味付けする、
そんな物語が大好きで、気に入った作品を繰り返し読んでいた。
あのあたたかくてわくわくする空気を、この作品も持っている。
1年生のころは、立原えりか、あまんきみこ、馬場のぼる。
学年が上がると、王さまの寺村輝夫、かぎばあさんの手島悠介、
『霧のむこうのふしぎな町』の柏葉幸子、ルドルフの斎藤洋、
延々と止まらなくなってしまうからこのあたりでやめておこう。
やさしい言葉とふしぎとユーモアがあんなに好きだったのに、
いつの間にか、私の吐き出す言葉は尖って鋭いものばかりだ。
たまに「僕」とムギさんの会話のような柔らかい空気に触れて
疲れを癒やしたり、刀を収めたり、そっと笑ったりしたくなる。
どの話やキャラクターが特に好きと選んで語ることは苦手で、
ネタバレも避けたいし、曖昧な感想になってしまうけれど、
夜空を走る喫茶店の雰囲気が丸ごと全部、すごく好きだ。
1話1話楽しみながら、「僕」の気付きや小さな成長を見守った。
ふぅわり楽しいふしぎなお話が好きならば、
口達者で少し世話焼きな黒猫が好きならば、
本がたくさん棚に並ぶ喫茶店が好きならば、
「僕」と一緒に家の屋根から抜け出して、夜空を旅しよう。
へへへ……面白かった!
本作は、少年とお話のできる猫とが、列車に付属したカフェに乗り込んで、夜ごと旅するストーリー。カフェにはマスターとシェフ。そして色んなお客さんがやってくる。時には下車して異邦を訪ねることもある。
少年はまだ幼く、一人立ちしたいと思っていても、その方法を充分にはわからない年頃。話し相手の猫のムギに、夜な夜な幻想的な世界に連れて行ってもらう。そのなかで、いわゆる「大人の世界」へと一歩一歩認識を深めていく。賑やかな登場キャラクターとのやりとりのあと、少年がふと考え、ムギと対話する。この流れがとっても面白かったです。
少年が思索するに到るような、ストーリーを彩る登場キャラクターや設定。これもまた大変面白い。たとえば本作は料理が多く登場し、物語でも重要な役割を果たす。このあたりの寓意を含ませる仕組みが巧みで、短編集の体裁をとる本作に通底する、アメージングな雰囲気を演出している。
少年はやがて色んな事を「決めて」一人立ちして、大人にだんだんとなっていくんだろう。そのための一つ一つのステップが、本作には篭められている。ぜひぜひ味読を!