十五歳のヴィンセント
鏡征爾
序
プロローグ
爆音のなか、目覚めた。
寒さのせいか、鎖の重みのせいか、からだの感覚はなかった。
ふるえはいつの間にか止まっていた。目をあけると瞳の奥が白く染まって、一瞬後には、絨毯爆撃の映像が洪水のように押し寄せてきた。
夢を、みていた。
† プロローグ
少年だけにみえるギアの鳥、少女たちのつくりあげる〈禁猟区〉。
二つの都市伝説に引き裂かれたこの物語は、しょうじき暴走している。
あたかもそれは十五歳の繊細な魂で編まれた繭のよう。やわらかくて。甘酸っぱくて。グシャグシャで。うちがわに熱をためながら自閉してる。感傷も脅えも暴力の記憶もからだのまわりで旋回しながらくるくると胸元で交差しエンブリオをつくる。
にもかかわらずその中心はからっぽで、あらゆる超展開の原因は、せんじ詰めれば語り部である僕自身の分裂にたどりつく。
だからこれは、どれだけ着飾っても、結局は個人的な体験の積み重ね。どうかこの話を聞いてほしいという思いと、お前らなんかにわかってたまるかという殺意が交錯してる。
だけどそれは、どれほど一人で悩みを抱えたところで、結果的に個人の記憶以上のものとなる。悲しくて、やさしくて、美しくて、残酷で、焼け付くような心の叫びが、虐殺のミサイルの雨となって世界を壊滅させる。
十五歳。
自分がいつも一番で、鏡に映る姿ばかり気にしていて、街には唾を落としてる。
胸はいつでも不安に焼かれて、始終脅えた目をしているのに、信じるものを何一つもたない。
要するに僕は二つの矛盾に引き裂かれた物語で、暴走する自我から撒き散らされるこの殺戮と浄化のコンデンスミルクみたいなエピソードは、都市伝説に引き裂かれた全体の物語と符合する。
だから僕は子供だろうが何だろうが全員ぶち殺してやるのだ。
だけど僕は天使さえふるえるほどの愛で全てを包んでやるのだ。
そんな全能の神にさえ許されがたい特権を、エネルギー体としての破局を迎え始めた僕は有していて――それでも目減りしていく記憶の細胞に残っているのは、彼女の言葉だ。
「ねえ奪われること」
「忘れること」
「与えること」
「焦がれること」
「汚されること」
「――こわく、ないよ」
「さよなら」
どこまでもどこまでも瞳の高さで続く防波堤。夕日の先まで続いていくその真っ白いカベの向こう側から、必死に自分に呼びかけ続けてくれた存在の意味を、まだ掴みかねているのだ。なぜなら、すでに彼女は消えてしまったからだ。目に見えるこの世界からは、いなくなってしまったからだ。防波堤さえなくなってしまった。街はつくり変えられた。
そう、今ではもうみんな消えてしまったのだ。
黒シリーズと呼ばれる正体不明の
そのギアに監視されながらからだを重ね続ける天使の羽根をつけた少女たちも、
そんな少女たちとは反対に、喜劇を演じて
少年少女たちのみずみずしい肌からは遠く離れて、皺がれた声で、病床のベッドの上で、人工呼吸器のうちがわから存在しないはずの息子の名を呼び続ける耄碌した父親も、
そんな父親たちを異世界で皆殺しにして、でも地上の光を求め続けながら、たった一人で、井戸の底で孤独に息絶えた、暗黒の世界の使者も――。
十五歳の僕らにしかみえなかった世界は、まばたきの隙に滅ぼされていく。
からだからも記憶からも失われて、衝動さえ尽きて、このあたまの細胞とともにエネルギーを撒き散らし、いつの日か弾けてゼロになる。
でも、君だけにはわかってほしい。
すべてが失われてしまっても、ただ、ひとつだけ確かなものは残っている。そして、僕はそのことに思い至るといつも目を閉じて、スタンガンをこめかみに押し当てる。
光で撃ち抜かれたこのキズは永遠に消えない。ということ。
十五歳のヴィンセント 鏡征爾 @kagamisa
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