エピローグ
そしてまた日曜日がやってきた。
今日の天気は秋雨。駅前はいつもより人通りが少なく、みんな傘の下で身を縮こませている。内藤さんは私のケースを胸に抱き込んで傘を差し、いつものように市民センターへと急いでいる。
あのオーディションの日から、内藤さんは変わらなかった。
また『日曜日のスケルツォ』のCDを聞いて、譜面をチェックして、スタジオを借りて練習をした。今度はセカンドパートを中心に。でも時折ファーストのソロもさらって、宇沢さんの演奏を参考にしてまた違った吹き方を模索していた。そして実際、音は確実にまた軽やかさを増した。
私は驚き、勝手に終わったものと早合点したことを恥じた。
何も終わっていない。始まったばかりなのだ。今回は駄目だったけど、チャンスはまたきっとくる。内藤さんはそう信じて努力し続けている。
ああ、馬鹿だなあ私は。内藤さんの粘り強さを見くびっていた。
それなら私も、もう一度。
沿道のコスモスは雨に打たれ萎れている。世界は灰色の幕に覆われて暗く霞んでいる。
いい天気ですね、内藤さん。
こんな日は私たちの音色がぴったりです。世界中に雨を降らせるような演奏をしましょう。
そしていつかは、晴れ渡る雨上がりの青空のような演奏を。いつか必ず。
内藤さんと憂鬱な女神 高部 @namima_t
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