フェミニズムの小説だと思いました

悪役令嬢物のひとつではあるんですが、多くの作品と違う点は主人公の恋愛事情は描かれない、ヒーロー不在ということですね。
敵役の婚約者とその恋人は確かに、「非常にすくいようのないムカツク性格」に設定されているんですが、やることなすことが支離滅裂過ぎて、性格的なバカ王子というよりは、何か先天的な障害さえ感じさせるレベルになっています。非難するべきと言うよりは、治療すべきなのではないかと。
そのため、主人公がバカ王子を嵌める、その陰湿さばかり強調されてしまって、何か女のどす黒い嫌な部分を目の当たりにしてしまったような、そんな印象も持ってしまいます。
アレルギー体質の人に「好き嫌いの激しい我儘な性格だ」と批判しているような、筋違いの横暴さを主人公に感じさせてしまう原因になってしまっています。
主人公は転生者ですから、初対面の時点では精神年齢では、主人公30歳くらい、バカ王子8歳くらいなのですが、大人として善導してあげようという姿勢は微塵もなく、破滅フラグを避けるために自己保身に走り、バカ王子を利用する、いいように転がす、そんな姿勢も目につきます。
主人公に共感できれば爽快なのでしょうが、できなければ、かなり嫌な部分が目に付く主人公であるのも確かです。
ヒーロー不在、ロマンスの欠落も含めて、主人公=女性性を絶対肯定している視点がフェミニズム的であって、徹底的に男性不在の、というよりも自分以外が不在の「女性の、女性による、女性のための」悪徳令嬢物という印象を受けます。
そういう意味では、大枠ではこのジャンルのフォーマットに沿いながら、かなり新しい小説です。その新しさ自体が、興味をそそられるのも事実です。

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