第2話
「と、いう訳で女装してみました」
「え? 誰? つか何?」
冗談じゃない。俺はこんな美女知らねえ。
なんでいつも通り家を出たらいきなり目の前に女がいるんだよ?
いや、なんか女装とか聞こえたけど、こんな奴しらない。つーか、湊にちょっと似てるな。
「だから、お前の――おっと、アンダーソン……じゃないな。下村雄介だから……」
「なんで俺の名前しってるんですか……? もしかしてこれあれか!? ラノベ的なあの展開なのか!?」
「うっせぇぞアンダーソン。ラノベとか言うな。恥ずかしいじゃないか」
ん? この感じ、なんか聞き覚えが――。
「お前、もしかしてみ、みみみみ、みなと……なのか?」
「ああ、そうだぞ。どうだ、綺麗だろ?」
俺は唖然としてしまった。
当然だろう。昨日まで男だった親友がいきなり女装しているんだから。
「だって、お前……」
「なんだ? 興奮して声もでないか?」
なんだこいつ、いつも以上になんかにこにこしてやがる。
しかも……完璧な女装だ。そこら辺の女子よりもキラキラして見える。
錯覚だ。コイツは男だ!
「本当にお前の性別、神様間違えたよな。マジで女にしか見えねぇわ」
「ははは、そうだろ? じゃあ行くか」
湊は俺に背を向けて歩き出した。
って、ちょっとまて。
「は? 行くって、どこへ」
「学校に決まってんだろうが。ほら、腕組むぞ」
「意味わかんねぇ。なんで腕なんか組まなきゃならないんだ!? なんだお前、しかもその恰好で学校行く気かよ!」
「いいじゃん。女子の制服だし。似合ってるし」
「いや、似合ってるけどさ! ちげぇ、そこじゃねえよ俺。褒めてどうするよ! ああもう調子狂うなー!!」
「テンパってんなー。ほれほれ、ぱんちらぱんちら♪」
「スカートをぱたぱたするな! はしたない!」
「意外とユウって純情だよな」
「うるせぇ! なんで女物のパンツ穿いてんだよ! しかも黒でえっちなやつ! あとユウとか呼ぶな、彼女じゃないんだからっ!」
くそ。チラッとしか見えなかったけど、あいつ、アレ無いように見えたんだが……気のせいだよな?
ああ、もう! 気にしても仕方ないか!
「そんなこと言いながら、しっかり見てるとこ見てんだな」
「……」
「あ、黙った。ほら。紅くなってないで行くぞ。ユウ」
やめてくれもう俺のライフはゼロなんだ……。
それよりもなんでこいつ、いきなり女装なんてし始めているんだ? 意味わからん。
しかもいきなりユウとか呼びやがるし。
「おい湊。なんでお前そんな恰好なんだよ」
「は? なんでってそりゃ、お前、彼女欲しいって言ってただろ?」
「いや、そりゃ欲しいって言ったけどさ」
「だから、俺が――いや、私が彼女になってやるって言ってんじゃないの」
「待て。女みたいな外見と声してんのに話し方まで変えるな。女にしか見えんだろ」
「いい感じに麻痺してきたね。ユウ」
ふわっ、って笑うな! ふわっ、って! 惑わされるだろうが!
ああ、胸の柔らかい感触が腕に当たって……?
やわらかい、感触?
「お、おいありえねぇ」
「どうしたユウ」
「なんでお前……胸?」
「え? ついにおかしくなったか? ユウ」
「いやいや、だってこれ、確実におっぱ……胸だろ!?」
女みたいな格好してると思ったら、胸出てやがるぞこいつ!
「これはおっぱいだ」
「え」
「これはおっぱいだ」
「何言って」
「これはおっぱいなんだ」
「もういいよ! わかっ」
「おっぱいだって言ってんだろ」
「言い過ぎだよ!もうわかってんだよそれがおっぱいだってことは!」
「よし、言質とったぜ。これで晴れて私はユウに女だと認めてもらえた訳だね」
小さくガッツポーズをとる湊を見て、はぁ、と俺は一つ大きなため息を吐いた。
まったく。訳分からん上に、コイツ朝からテンション高いな……。
そこで俺は気付いた。
湊は昨日まで普通の男子の制服を着てたわけで。
こいつは一人暮らしで妹も姉もいなくて。
……。一応聞いてみるか。
「そういえばさ、湊。お前、なんで女子の制服なんて持ってんだよ」
「え? ああ、これ? 昨日夜道歩いてたうちの高校の女子ひん剝いて強奪したの。ちなみに持ち主は生きてるから心配ないよ」
どうやら本当の事を言う気はないらしい。
呆けて立っていると、湊が俺の腕に腕を絡ませてきた。
腕組みしながら……ね。
周りの奴ら、どんな反応するんだろな。
……少し――ほんの少しだけ――面白くなってきた。
こうして俺は、湊にされるがまま学校に向かうことになったわけだ。
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