何もかもが肯定的でプリミティブな、一大エンターティメント!

 あまりに原始的(プリミティブ)で根源的――読み進める内に感じた本作の魅力は、何と言ってもこれに尽きるのではないか?
 王道のボーイ・ミーツ・ガール、甘酸っぱい青春、VR格闘ゲーム……この作品の魅力はいくつもありますが、これらの根源、中心に位置するものは、どの人間の中にも目指す普遍的な感情、衝動です。

「できることをやりたい」
「自分の力を出し尽くしたい」
「出し切った以上の力を、新しく獲得したい」

 問われたら答えたくなるように、スイッチがあったら押したくなるように、ごく自然な、当たり前の素朴な気持ち。
 戦いは、楽しい! 平和な社会では野蛮ともそしられる、しかし否定し難い人間の本能が、ここでは肯定され、充足される。
 それ以外にも、不安や葛藤、等身大の感情が様々に描かれ、読者の共感を誘いつつ、同時に、物語全体が強く「肯定」の姿勢を持っています。

「小説家の仕事は、人間の肯定だ」と言ったのは、保坂和志さんだったでしょうか。くすぶっていた状態を抜け出し、培ってきたもの、磨いてきたもの、抱え込んでいたものを全力で発揮し、競い合い、楽しむ! その様を力いっぱい肯定していく本作は、まさに人間に対する肯定に満ちている、素晴らしい小説だと思います。だからこそ、これほど多くの読者を惹きつけたし、これからもますます読まれるべき作品だと思います。

 いわゆる暗い情熱を求める向きには少々物足りない部分もあるかもしれませんが、「楽しい」というシンプルで、そして誤魔化しの効かないものをここまで確かな筆致で描き出した本作は、やはりただものではない。
 今6-5まで読了しましたが、続きも楽しみにお待ちしております!

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