第一話

「あなたの名前はなんていうの?」

「僕の名前は絆、前田絆っていうんだ」

 それが僕と彼女の初めての会話だった。



 僕はどこにでもいるような普通の高校生。北海道生まれの北海道育ち。

 両親もいて、父親の収入は普通、でも面倒見がよく会社の同僚の人から信頼され、後輩からは慕われていた。

 母親も基本的には温厚で怒るときには怒る、いわゆるできた人だった。

 祖父母はおらず、親戚は父親の方の叔父が一人のみだった。

 僕は友達も普通にいて幸せに囲まれた生活だった。


 あの日までは……


 叔父がギャンブル依存症で多額の借金をしてしまったあの日からすべては変わった。

 叔父は連帯保証人を父親にお願いし、母親の反対を受けながらもしぶしぶ承諾した。

 その日に叔父は夜逃げした。


 その日から僕の生活は一変した。

 朝からチャイムを鳴らされ、家に落書きをされ、友達にあることないことを吹き込んだ。

 母親は病気がちになり、父親はそれに抗うかのように頑張って仕事を続けていたが、何の前触れもなく突然、無気力になって仕事を休みがちになった。

 それから僕の周りにいた友達はひとり、またひとりと少しずついなくなり、父親を信頼していた同僚や後輩たちもひとり、またひとりと見捨てた。

 .......すべては叔父のせいで。


 8月に入ったばかりの時、父親はあることを言った。

「なあ、どっかに引っ越さないか」

 唐突にそう言ったんだ。


 僕と母親はもちろん賛成し、それからの行動は今までの焦燥感はどこへやら、静かに、しかしちゃくちゃくと準備を進めていった。


 幸いにも借金取りにはばれることもなく引っ越せた。

 それはもしかしたら時間の問題かもしれないけど。

 そして僕らの家以外には近くに家が一軒あるだけで他には特段何もないような田舎に行った。

 僕らの家は、それはもう酷いありさまだった。

 トタンの屋根は剥がれ落ち、周りは黒ずんでいて、辺り一面雑草が茂っていた。

 中に入るとクモの巣はそこら中に合って床の木材はあちこち穴が開いていた。


 ただそんなところでも僕はとても嬉しかった。

 ストレスに悩まされることはなく、貧乏だけれども普通の生活が送れることに。

 それは僕だけではないようで、父親は小さな町工場で働き、母親は病気も治って家事を再びできるようになっていた。


 高校に行けるお金は残っていなく、僕は来たるべき日のために少しずつ勉強をしていた。

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